コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。「ちょっと不思議」「ほっと一息」などを共有できれば嬉しいです。宜しければ、ひとときおつきあいください。

【掌編小説】 卒業する君たちへ ~最後のHR

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 みんな卒業おめでとう。これが最後のHRだ。

 これから、大学へ進学する者、就職する者とそれぞれだが、新生活が始まるまで時間があるからと言って、はしゃぎ過ぎないように。卒業旅行もいいが、調子に乗って遠くまで行きすぎると、世界の果てから転げ落ちてしまうぞ。

 ん、世界の果てなんか無くて地球は丸いだと? いやいや、地球の裏側にいる人はどうなるんだ、真っ逆さまに落ちてしまうだろう。

 なに、地球には重力があるから大丈夫だと? 地球は丸くて、ぐるぐると自転しているだと? 

 おいおい、それ、見たのか? 考えてみろよ。地球がぐるぐると自転していたら、その上に乗っている我々は遠心力で吹き飛ばされてしまわないか?

 えっ、地球はぐるぐると自転していて、しかも太陽の周りを回っているだと?

 またまた、勘弁してくれよ。どう見たって、太陽は朝に東から登って、夜に西へ沈んでいるだろう。月だって、太陽と同じように動いているじゃないか。どうして、地球が太陽の周りをまわらないといけないんだ。

 はぁ、宇宙船地球号? 知らんぞ。だれが運転しているんだ、それ。

 

 はいはい、静かに!

 わかりました。確かにそうです。重力ね、ニュートンさんが発見しましたね。地動説ね、コペルニクスさんがそれまでの天動説を覆しました。

 

 だけど、いいか、ニュートンもコペルニクスも、ついでに言えばガリレオも、皆、それまで信じられてきたことを疑ったことが、大事な発見につながったんだぞ。それまで信じられてきたこと、言い換えれば固定観念だな、これを盲目的に信じ込むことをしなかったんだ。

 皆は、重力がどうとか地動説がどうとか言っていたけど、全く何も考えずにただ教えられてきたことを受け入れていないか。それじゃ、天動説を教えられてそれを信じていた人たちと全く変わらないぞ。

 確かに、人類の進歩は先達の発明や発見したものの積み重ねがあるからこそだ。いちいちスタートからやり直さなくていいんだからな。例えば、九九が発明されているおかげで、我々は足し算を何回も繰り返す不便さを経験しなくて済むし、ゼロの概念が発見されているからこそ、それを下敷きにした数学を操ることができる。

 もっと、身近な例で言えば、食べ物もそうだな。いろんな食べ物を先達が試し、さらには改良してくれたおかげで、我々は、様々な種類の食べ物を安全にいただくことができる。いちいち食べられるかどうか試してみるところから再スタートしなくていいんだ。

 だけどな。既にあるものを、なにも考えずに受けれることはやめよう。それでは、なにも進歩がないことは先程話した通りだ。まず、これまでの考え方について自分で考えて、それから受け入れられれば受け入れればいい。もちろん、疑問に思えばそれについてもっと考えればいい。ひょっとしたら、次のニュートンになれるかもしれんぞ。

 そうやって、単純に固定観念を受け入れるのではなく、自分で物事を考えるようにする習慣は、皆のこれからの人生を楽しく豊かにしてくれるはずだ。いいか、皆は高校までいろんなことを勉強して十分知識を得たとか、ある意味流行の最先端は自分たちだとか思っているかもしれないが、皆が持っている知識なんかはほんとに基礎の基礎だぞ。この世界は、皆が知らない不思議なことや楽しいことであふれているんだぞ。

 右手をまっすぐに伸ばして、手のひらを上に向けてごらん。

 今も、皆の手のひらの上を、たくさんの不思議や楽しさが通り抜けていっているんだ。だけど、それに気づいて、すくい上げることができる人は、考えることができる人だ。考えることで、たくさんの不思議や楽しさに気付き、人生を豊かにしていくことができるんだよ。答えが必ずあるわけではない。選択肢には必ず「その他」がある。だけど、その人の目には、考えない人が見ることのできない、固定観念の外にある世界が見えるんだよ。

 そろそろ時間だな。先生は、皆が「考える」ことで、これからの人生を楽しく豊かにしていくことを願っています。

 よし、委員長、響花。最後の号令を頼む。

 

「起立。 気を付け。 先生、3年間ありがとうございました! 礼!」

 「ありがとうございました!」

 

 うん。では、諸君、再見の日まで壮健であれ! 解散!

<了>