キーンコーンカーンコーン
2時間目と3時間目の間の休み時間は、少し時間の長い「中休み」だ。
5年3組のみんなも、校庭で遊んだり本を読んだりして過ごす「中休み」を楽しみにしている。
「よーし、サッカーしようぜ!」
小柄だが、少し肌寒くなり始めたこの時期でも半そで半ズボンの元気な男子が、友達に声をかけた。
「OK!」「やろうやろう。」
もちろん、仲のいい友達数人がすぐに集まって来る。
みんな「中休み」を楽しみにしていたのだ。
「だめよ、颯太! わたし達は大縄跳びの練習がしたいんだから。」
今にもボールを持って教室を飛び出そうとしていた颯太達に、背の高い女子が声をかけた。人に指示をするのに慣れた、大人びた口調だ。その後ろには数人の女の子が従っている。
「なんだよ、お前らはお前らで遊べばいいだろう?」
颯太は、イライラしながら自分を呼び止めた響花に反論する。遊ぶ時間が減ってしまうじゃないか。
「だめよ、ほら、見なさいよ。」
響花は振り向いて、教室前方の黒板を指差した。ピンと伸ばされた指の先には、今日の日付、日直の名前、そして、今日の目標が白いチョークでくっきりと記されている。
「今日の目標 : 一致団結! 5年3組」
今朝、担任の教師が書いたものだ。
「朝、先生も言ってたでしょう。みんなで心を一つにして頑張ろうって。運動会も近いんだし、クラス全員でクラス対抗競技の大縄跳びの練習をしましょう。」
5年3組の委員長である響花はクラスのまとめ役でもある。先生の話にそって、運動会に向ってクラス全体で盛り上がりたいようだった。
「そんなの体育の時間にやるじゃないか。今は休み時間なんだから、好きな遊びしたっていいだろう。」
しかし、そんな響花の気持ちも知らず、颯太達はサッカーをして遊びたい気持ちを抑えきれない様子だ。
「それじゃ一致団結にならないじゃない。それに、運動会ではクラスみんなで大縄跳び飛ぶんだよ、みんなで練習しなきゃ。」
責任感の強い響花には、颯太の考えが理解できない。どうして、時間のある限りみんなで協力して練習しないのだろう。わたしの考えは間違ってる?
「あーもう、わからない奴だな。休み時間に遊んで何が悪いんだよ。」
「もう、どうしてわからないの? みんなで協力することが大事なんだよ。」
だんだんとイライラをつのらせていく二人に、周りの子供たちが慌て始める。
そこに颯太の後ろにいた大柄な男子が参戦した。颯太の親友、来夏だ。
「じゃあ、みんなでサッカーをしようぜ。そうしたらサッカーもできるし協力もできるだろう?」
新たな提案に、今度は響花の後ろから反論が出る。
「だめだよ、それじゃ結局、運動会の練習しないじゃん。もう、じゃんけんにしたら? じゃんけんで勝った方にクラス全員参加ということでどう?」
響花の意見も取り入れつつ、じゃんけんという恨みっこなしの解決法の提案だ。さすが、クラスの知恵袋といわれる桜だ。
しかし、ようやく落としどころが見つかったと安心できたのもつかの間で、教室の自席で問題集に取り組んでいた孝二から、更なる異論が出された。
「勘弁してくれよ。僕は勉強を進めたいからほっておいてくれないか。時間が惜しいんだ。」
孝二は中学受験に向けて、休み時間も猛勉強中なのだ。
「だからだめだって! 一致団結、5年3組でしょ!」
「じゃあ、もう、休み時間なんだから自由に遊ぼうや!」
また、話が振り出しに戻りそうな状況に、桜が焦って提案を出す。
「あーもう、わかった。じゃあ、多数決、多数決はどう。ね、民主的でしょ。」
この間、授業で習った言葉を散りばめてみる。頭の良い孝二なら「多数決」、「民主主義」などの言葉には喰いつくはずだという桜の読みだ。
だが、孝二の返答は桜の考えよりもっと上を行っていた。
「多数決、ね。結局、数の暴力だろう。どうしたって、サッカーか大縄跳びになってしまって、僕の意見は通らないじゃないか。少数の意見や権利は無視するというのかい? それが民主主義とは僕は思わないね。学校は勉強するところ、いっそ、みんなも一致団結して休み時間も勉強したらどうだい。」
にらみ合う、颯太、響花、孝二。
お互いに目を合わせ、天を仰ぐ、来夏と桜。
そして成り行きを見守る5年3組の仲間たち。
それぞれに理はあり、それぞれに正しさがある。
だが、事実はひとつだけ。
少しだけ長い「中休み」は有限だということだ。
キーンコーンカーンコーン
「あーっ!!」
三者三様の悲鳴が上がった。