あのヒトは雨の中 わたしを置いて行った
公園の道をヒトリ 傘もささずに歩いて行った
記憶の中に残るあのヒトは
ただの黒い影に過ぎない
あのヒトの顔などはとても
思いだすことはできない
だけど
どうしてだろう
どうしてわたしは
あのヒトのことを忘れていないのだろう
どうしてわたしは
あのヒトがくれた冷やし飴の
ショウガの香りを探しているのだろう
それは子供のころのお話
あれは少女のころの物語
これは大人のための読み物
どれがあのヒトのストーリー なのだ
雨が降るたび
わたしは傘を差し あのヒトを探す
この傘はきっと
あのヒトがわたしに 持たせてくれたものだから
あのヒトに会って
ヒトコト
「連れて行って」と言えたなら
今度は
わたしも 一緒に行ける
そう 思うから