コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

【掌編小説】 9月の雨はクラゲ色

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『皆さんこんばんは。夕方5時55分になりました。「5分間のフェイクニュース」の時間です。

 

 最初のフェイクニュースです。

 古谷川に掛かる荒畑橋の一部が崩壊しました。H県K市を流れる古谷川に掛かる荒畑橋は3基の橋脚に支えられていましたが、今朝10時ごろ中央の橋脚が突然崩れ、橋の真ん中部分も落下しました。当時、橋の上には歩行者1名がおりましたが、歩行者は一度は橋と一緒に落下したものの、平泳ぎで空中を泳ぎのぼり、かろうじて橋の上に這い上がることができたため、怪我人はありませんでした。

 橋脚崩壊の原因について、老朽化と鋼材の盗難との両面から調査中です。

 

 宇宙開発で快挙です。

 太陽系開発協同組合連合会の発表によると、準惑星冥王星を目指していた無人資源開発調査船「えべっさん」から、「ええもん見つけたから送るわ」との連絡が入りました。実際に何が発見されたのかは今のところ不明です。連合会によると、発見された「ええもん」については、一週間後の夜間17時~20時の間に、時間指定便で送られてくるとのことです。連合会担当者は「留守にしないように慎重に対応したい」とコメントしています。

 

 心配なニュースです。

 スギ花粉症に悩まされている方も多いかと思いますが、平成の一時期に「花粉を出さないスギ」を大量に植林した影響で、各地でスギハナハチの数の減少が報告されています。スギハナハチはミツバチの一種で、各種農業でも利用されているため、一部地域では対策として「花粉を出すスギ」への転換が検討されています。

 

 高校で必修となっている「日本語」について、政府は必修廃止の検討を始めました。

 いわゆる「英語」が標準語となっている現代でも、日本の文化の継承の一環として「日本語」を残す必要があるという見地から、「日本語」は小中学校での必修科目とされています。しかし、既に、日本という国が存在しないこと、文化の継承を押し付けることは基本的人権の尊重の観点から問題があるのではという指摘があることなどから、政府は、早ければ来年度から、「日本語」を必修科目から外して、選択科目とすることを検討しているとのことです。

 

 地域のニュースです。

 今朝8時ごろ、K市のM区を走る列車の中で、通学中で席に座っていた小学生O君が、乗り込んできた初老の男性に席を譲ろうとしたところ、「年寄り扱いするな、失礼な」と大きな声で怒鳴られ、次の駅で泣きながら電車を降りたとのことです。

 

 天気予報です。

 9月に入りました。海中に発生したクラゲの水分が洋上で蒸発し、地上に雨となって降ってくる季節です。今日のこれからの降水確率は50%。雨が降る場合は、クラゲ色の雨が降るでしょう。

 

 それでは、6時の時報です。

 ピ・ピ・ピ・ポーン』

 

 

「お疲れ様でした」

 僕はインカムを外しながら、番組スタッフに挨拶をした。

 原稿の整理や日報の記帳など雑多な要務をこなしてからラジオ局を出ると、外は既に暗くなっていた。

 ポツ、ポツ。

 肩に雨が当たる。

 どうやら、本降りではないものの、雨がぽつりぽつりと降ってきているようだ。9月に入っていてよかった。傘の心配をせずに済む。

 僕が夜空を見上げると、天上から小さな半透明の落下傘が、街のイルミネーションに輝きながら、ゆっくりと降下してきていた。9月の雨は、小さなものは小指の爪ほど、大きなものは子供の手のひらほどのクラゲたちだ。

 ふわりふわりと空を揺蕩いながら、充分に月の光を楽しんだと思ったら、地上に降りてくるクラゲたち。

 頭上を中心にして周囲に広がるように、ゆっくりと降下してくるクラゲたちに包まれると、地上を歩いているのか海底を歩いているのか、わからなくなってくる。

 僕たちは、自分たちのはるか祖先が深海の底から見たであろう景色を、地上から見上げているのだ。

 僕は右手をのばして、そのうちの一つを手の平で受け止めた。

 半透明の膜に小さく僕の顔を映していたそれは、ほうっと蓄えていた月の光を放ったかと思うと、次の瞬間には、どこにもいなくなっていた。