コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

月の砂漠のかぐや姫 第67話

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(これまでのあらすじ)

 月の巫女である竹姫と、その乳兄弟である羽磋。月の巫女としてではなく、素の自分の居場所が欲しいと頑張る竹姫に、羽磋は「輝夜」(かぐや)の名を贈り、自分が輝夜を望むところに連れて行くと約束します。それは二人だけの秘密でした。しかし、大砂嵐から身を守るために月の巫女の力を使った竹姫(輝夜姫)は、その大事な秘密を忘れてしまいます。月の巫女はその力を使った代償として自らの記憶・経験を失い、最悪の場合は、その存在が消えてしまうのです。それを知った羽磋は、輝夜姫が無事に生を全うして月に還ることができる方法を探すため、肸頓族の阿部の元へと旅立ったのでした。

※これまでの物語は、下記リンク先からまとめて読むことが出来ます。

www.alphapolis.co.jp

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きっとん)族へ出されることとなった。大伴の息子。

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

 

 

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【第67話】

「あ、あそこ、何か動きませんでした? 大丈夫ですかね。大丈夫ですかね・・・・・・」

「おい、おい、お前が言うなよ。案内人はお前だろうが。大丈夫かどうかは、こっちの台詞だぜ?」

「あ、すみません、すみません。もちろん、大丈夫です、大丈夫ですとも。道は、ばっちり覚えていますし、何よりも僕がいる限り、盗賊に襲われる心配はありません。それは、保証いたします。でも・・・・・・。なにか、変な影が見えませんでしたか?」

「あのなぁ・・・・・・」

 交易隊を先導している男は、何かに怯えているかのように、オドオドと周りを見回しました。その横で、駱駝を引いてる交易隊の男が、彼を呆れたように見つめていました。

 彼らは、今まさに、ヤルダンに林立する大小様々な砂岩の間を、駱駝が作る一本の糸で縫うようにして、ゆっくりと進んでいるのでした。

 開けたゴビの大地を歩き慣れているせいでしょうか、それとも、この地にまつわる様々な云われがそうさせるのでしょうか、男が不安感にあふれた眼差しで周囲を眺めると、遠くの砂岩は先ほど見たときからわずかに場所を変えたように見えますし、近くの砂岩の影の中では、何かが動いたかのように見えました。そして、それらが、ますます彼を不安にさせるのでした。

 この先導役の男の名は、王柔(オウジュウ)と言いました。砂漠のオアシスで見られるナツメヤシのようにひょろっと背の高い男で、面長なその面持ちは少年の面影を残している、成人してまだ間もない若者でした。交易隊の他の男たちは、頭に白い布を巻いていましたが、この王柔だけは、白い頭布の上に赤い布を巻き付けていました。

「頼むぜ、お前がしっかりと案内してくれないと、俺たちはこのヤルダンの中で迷子になっちまう。それに、なにより・・・・・・」

 交易隊の男は、少し首をすくめながら辺りを見渡しました。ヤルダンの中を歩き始めると、周囲の砂岩の塊に視界が遮られてしまい、方角を定めるときの起点となる天山山脈や祁連山脈が見通せません。それに加えて、特徴があって名前が付けられているような砂岩はともかく、ほとんどの砂岩は、どれもこれも同じように見えますから、自分が一体どこを歩いているのかが、全く分からなくなってしまうのでした。

 そのために、ヤルダンの道案内として雇われているのが王柔なのですが、彼にはもう一つ、大切な役割があるのでした。

「大丈夫ですよ。それは、大丈夫です。さっきも言いましたが、俺がいる限り、姐さんがこの隊を襲ってくることなんてないです。もしそんなことをしたら、僕が皆さんに殺されちまいます。僕たちは家族ですからね、姐さんがそんなことをするはずがありません。大丈夫ですって」

 王柔は、自分の頭布の上に巻いている赤い布を指さしながら、交易隊の男を安心させるように、説明をしました。もっとも、その言葉の内容はともかく、話し方に覇気が感じられないので、説明を受けた交易隊の男も、腹の底から安心をするというわけにはいかないのでした。

 王柔は、このヤルダン一帯を縄張りとしている盗賊団の一員でした。この盗賊団の頭は王花(オウカ)という女性でした。

 盗賊団と呼ばれてはいるものの、この「王花の盗賊団」の活動は、吐露村や土光村を含むこの辺りを活動圏内としている、肸頓族の族長である阿部の認めるものとなっているのでした。

 昔から、ヤルダン一帯はその入り組んだ地形のために、交易隊にとってはもっとも危険な場所の一つとされてきました。待ち伏せに適した場所が、それこそ無数にあることから、ここで盗賊に襲われる交易隊が後を絶たなかったのです。しかし、ある時を境に状況が変わったのでした。王花が自らの盗賊団を率いてこの周囲一帯を縄張りにした後で、盗賊活動から護衛活動に、その生業を切り替えたのです。

 つまりは、こういうことです。吐露村、あるいは、土光村から、ヤルダンを挟んで反対側の村まで行こうとする交易隊は、王花の盗賊隊に道案内を申し込む。王花の盗賊隊から派遣された道案内人は、頭布に目印の赤い布を巻き、交易隊の先頭に立ってヤルダンを渡る。その案内人が目印となって、交易隊は王花の盗賊団からは襲われる危険が無くなる、ということです。では、仮に何度もヤルダンを渡った経験のある交易隊が、その道案内人を頼まなかったとしたら・・・・・・、彼らは、自分たちが予想もしなかったところから現われる、王花の盗賊団に襲われることになるでしょう。

 王花の盗賊団は、道案内という形で通行料を徴収していたのでした。それを払う者には道案内とヤルダンでの安全を保障する一方で、それを拒むものには、地の利を生かして略奪を行うのでした。

 阿部は、王花のその行為を黙認していました。なぜなら、王花がヤルダン一帯を管理下に置くことによって、他の盗賊団がそこに入り込めなくなったからです。王花は、お金を払う交易隊には手出しをしませんし、その要求する額も、決して無法なものではなかったので、阿部は、彼女たちを、まるでヤルダンの管理人として扱っていたのでした。彼女たちへの給金を阿部が負担することはありませんでしたが、その代わりに、通行料を徴収することを認めたというわけでした。

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