コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

月の砂漠のかぐや姫 第94話

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(これまでのあらすじ)

 月の巫女である竹姫と、その乳兄弟である羽磋。月の巫女としてではなく、素の自分の居場所が欲しいと頑張る竹姫に、羽磋は「輝夜」(かぐや)の名を贈り、自分が輝夜を望むところに連れて行くと約束します。それは二人だけの秘密でした。しかし、大砂嵐から身を守るために月の巫女の力を使った竹姫(輝夜姫)は、その大事な秘密を忘れてしまいます。月の巫女はその力を使った代償として自らの記憶・経験を失い、最悪の場合は、その存在が消えてしまうのです。それを知った羽磋は、輝夜姫が無事に生を全うして月に還ることができる方法を探すため、肸頓族の阿部の元へと旅立ったのでした。

 

※これまでの物語は、下記リンク先でまとめて読むことが出来ます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きっとん)族へ出されることとなった。大伴の息子。

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【第94話】 

「ヤルダンへ。母を待つ少女の奇岩の元へ。やっぱり、そうだね。それしかないだろうね」

 時を置かずに、王花が小野の言葉に同意を表しました。これまでに聞いていた話の内容から、羽磋にも同じように考えられました。小野の指示を聞く体勢となっている冒頓も深く頷いていますし、超克も同様です。小部屋の中にいる人たちの意思は、小野の意見の下に統一されたように見えました。・・・・・・ただ一人、真っ白な顔色をして細かく震えている男を覗いては。

「具体的な方策としては、盗賊団の者が襲われたことを考えて、やはり冒頓殿、貴方に動いてもらうのが一番だと思います。私の交易隊は荷を下ろしたばかりですし、まだ動かせません。それに、もう既にこの問題について話が広がっているのかも知れませんが、やはり、できるだけ事を大きくしない方向で動きたいのです」

 小野は皆の同意が得られたと考え、具体的な動きの指示をし始めました。

 ヤルダンの問題と理亜の問題の共通の原因として、人知を超えた精霊の力の動きがあると考える以上、小野は問題を大きくし、それに関わる人を増やして、結果的に御門に話が伝わることを恐れていました。小野たちは、「月の巫女を月に還す」という考えを持つ阿部たちの下で、精霊の力についての情報や月の巫女に関わる祭器を集めていましたが、それは、「月の巫女の力や精霊の力を戦に利用する」という考えをもち、それに関する情報や祭器を集めている御門たちと、相反する活動になるからでした。

「そこで、申し訳ありませんが、羽磋殿。貴方にも協力していただきたいのです」

「え、ええ!? 私ですか?」

 突然、広がっていた話が糸のように紡がれて、自分の方へ真っすぐに飛んできたことに、羽磋は虚を突かれました。もっとも、羽磋としては、できるだけの協力をするつもりでこの話を聞いていたのですし、それが、月の巫女の祭器や、精霊の不思議に関するものであるのなら、自分から願い出てでも、その活動に加えてほしいと考えていたところでした。なぜなら、その月の巫女の祭器の話などが、輝夜姫を月に還す術を探すという自分の目的にも、繋がってくるかもしれないからでした。

「ええ、そうです、羽磋殿。ご迷惑であるのは承知の上で、お願い申し上げます。何卒、ご協力いただけないでしょうか。それに、羽磋殿の旅の目的から考えて、貴重な知識を得られることになるかもしれませんし」

「ああ、いえっ、すみません。びっくりしてしまっただけで、協力するのが嫌とか困るとかいうわけではないのです。小野殿のおっしゃるように、私の旅の目的から考えても、私の方から同行をお願いしたいぐらいです。もちろん、喜んで協力させていただきます・・・・・・。それで、私は何をすればよいのでしょうか」

 生真面目な返答を返す羽磋に、小野は深々と頭を下げて謝意を伝えると、その依頼の中身を説明し始めました。

「つまり、こういう形にしようと思うのです。ここまで、羽磋殿は我々と旅を共にしてきました。しかし、我々はこの土光村にしばらく留まり、他の交易路を通ってきた交易隊と荷の交換などをしようと考えています。。いつ吐露村へ向かうことになるのかは、その経過次第ということになるので、今のところわかりません」

「え、そうなのですか、あっ」

 小野の言葉を正面から受け止めそうになった羽磋は、冒頓が右手を机の上に置いて「待てよ」と伝えた事で、気が付きました。これは、「対外的にこのような形にする」という、小野の説明なのでした。

 小野は羽磋の方へ軽く会釈しながら、中断することなく話を先へ進めていきました。それは既に彼の頭の中で出来上がっている計画で、あとはそれを取り出して皆に伝えるだけになっているのでした。

「そこで、貴霜(クシャン)族から肸頓(キドン)族へ出され、肸頓族の族長である阿部殿に会うために吐露村を目指しておられる羽磋殿には、交易隊とは別に行動していただく事にしたいと思うのです。つまり、我々の動きを待つことなく、先に吐露村へ行っていただくということです。もちろん、大事な留学の徒を我が肸頓族へお迎えするわけですから、お一人で危険なヤルダンを通らせることはできません。村に留まる間は護衛の仕事は少なくなりますから、冒頓殿たち護衛隊の者を羽磋殿に同行させます。それにヤルダンを通る訳ですから、王花の酒場から案内人を出してもらいます。ああ、そうですか、王花殿。王柔殿を出していただけるのですか。それは、ありがたいですね。羽磋殿は、主に祁連山脈の周囲で遊牧を行っている、貴霜族のご出身。こちらの方へ来られたのは初めての事だそうですし、できれば、世にも珍しいヤルダンの奇岩も、道中にご覧になっていただけると良いですね。駱駝岩や孔雀の岩、単于の杯や、そう、もちろん、母を待つ少女の像も」

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