北方に位置するこの石造りの街は、既に冬の空気で満たされている。
空にはまだ陽があるというのに、敷石から立ち上がってくるのは、ピリピリとした冷気だけだ。
大人たちの表情は総じて暗く、皆の心を占めているのは、この冬をどうして越すか、その一点だけ。
彼らの口から出る願いの言葉は、神様に届く前に、寒風に離散する。
天使の羽が舞い散るように、純白の小片が天上より降ると、街の呼吸はいよいよ激しくなる。
迎えを待つ病人のように身動きもしないのに、その身体を維持するがために、たくさんの煙を立ち上らせるのだ。
暖炉に薪を加えながら大人たちは、この炎をどうして春まで絶やさずにおこうかと、頭を悩ます。
赤々と燃える炎は、乾いた薪に飛びついてそれを灰に変えるのと同時に、大人たちの希望を食い散らかす。
灰色の街は、ゆっくりと、しかし、確実に、白一色に染められていく。
汚れのない結晶は、聖職者が説く神の愛のように、すべてのものの上に等しく積み重なるのだ。
大人たちにできることは、ああ、大人たちにできることは。
北からの風が吹き続ける間、街はその機能を停止し、最後の審判の時を待つ。
いや。
すべてが、凍りついたわけでは、なかった。
「やったぁ、雪だ!」
「わぁ、積もるかな、積もるかなぁ」
「ユキダルマ作ろうぜ、ユキダルマ!!」
すっかり新雪に覆われた通りに響き渡ったのは、子供たちの歓声だ。
すべての音を取り込んで無にするヴェールも、子供たちの歓声だけは、吸収することはできないのだ。
やがて、街の通りには、家々の戸口には、大小のユキダルマが立ち並ぶようになる。
大きいものから小さいものまで、枝で手を形どったものから、目に石をはめ込んだものまで、多種多様のユキダルマが立ち並ぶのだ。
この街を守るように。
この街を訪れる何かを、迎えるように。
冷たく凍えた子供らの手を暖炉の火で温め、その頭をなでる大人たちは、自分でも知らぬ間に笑顔を浮かべている。
そうだ、この街は古くから、幾度となく雪に閉ざされ、そして、春を迎えてきた。
心配することなど、なにもないのだ。
雪の女王が訪れようと、極北の冬将軍が訪れようと、この街はユキダルマが守ってくれる。
なぜなら、ユキダルマの中心には、子供たちの純粋な喜びと希望が詰まっているのだから。
そう、それらが凍りつくことなど、決してないのだから。