コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。また、短編小説集をBOOTHで発売しております。https://syuuhuudou.booth.pm/

これまでのあらすじ③(「月の砂漠のかぐや姫」第33話から第41話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ③】

 竹姫の下を走り去った羽は、どこからか帰ってきたばかりの大伴と出会いました。大伴は「ちょうどよかった。お前に話があるのだ」と、羽を見回りへ連れ出します。羽にとっても、大伴に問いただしたいことがあったのでした。竹姫は「二人が高熱を出して倒れていた」という説明は大伴から聞いたと言うのですが、彼の説明の中にはハブブなどは出てこなかったとも言うのです。でも、砂漠から二人を助け出してくれたのが大伴なのであれば、あの大規模なハブブを目撃しなかったことなどありえないのです。どうして、大伴は実際に起きたことを、竹姫に話さなかったのでしょうか。

 大伴と羽は、宿営地から馬を出して、ゴビの各所で家畜たちが草を食んでいる様子を見て回りました。そして、最後に二人が馬を止めたのは、宿営地を見下ろすことができる高台でした。

 周囲に人がいないことを慎重に確かめた大伴は、羽のこれまでの成長を誉め、彼にの成人を認めて「羽磋」(ウサ)という名を贈りました。この名は、彼の身軽なところから来た「羽」と、磨き極めるという意味を持つ「磋」からなっていました。自分が成人するのはまだ先だろうと思っていた羽は、感動で身を震わせながら、大伴に頭を下げるのでした。その息子に対して、大伴はある思い出話を始めました。それは、大伴がまだ少年であり、「伴」(トモ)と呼ばれていたころの話でした。

 月の民には、将来に部族の指導者層になると見込まれる有能な若者を他の部族へ出す、つまり、留学させる習慣がありました。伴もその習慣にのっとり、双蘼(シュアミ)族の根拠地である筑紫村に出されました。

 有能ではあったものの引っ込み思案な一面もあった伴は、自分と同じ年頃の温(オン)姫と出会い救われるのでした。温姫は、今の竹姫と同じように、周囲から敬意をもって接せられ、未成年の少女であるにもかかわらず「姫」という敬称をつけて呼ばれている「月の巫女」でした。

 温姫を通じて伴は、極めて鋭い思考を持つ双蘼族の青年「御門」(ミカド)、その妹「庫」(クラ)、自分と同じように肸頓(キドン)族から双蘼族へ出されてきていた「阿部」(アベ)と出会いました。彼らは筑紫村に起きた大きな事件を協力して解決する中で、その心を深く通わせていったのでした。また、その一件の功績により、伴は成人を認められて、大伴(オオトモ)と名乗ることになったのでした。

 しばらくして、彼らはさらに大きな事件に巻き込まれることになりました。月の民の勢力圏の北部で、新興遊牧民族「匈奴(キョウド)」との間で、本格的な戦が起こったのでした。

 豊かな遊牧地をめぐるいざこざが発端となったこの戦いは、同じ遊牧民族同士の戦いのためなかなか決着がつかず、双方に被害だけが積み重なっていきました。そのような状態の中で、ゴビ北東に広がる草原の一角にある烏達(ウダ)渓谷において匈奴を完全に打ち破り、戦いの趨勢を決定づけたのが、御門だったのでした。

 烏達渓谷の戦いにおいて、御門が提案し実行したのが「月の巫女」の力を戦闘へ利用することでした。乳兄弟として自分を慕ってくれる温姫は、彼の力になりたい一心で危険を承知で協力を申し出ていました。大伴や阿部たちも、温姫のことを思えば気が進まないながらも、本人の意向と部族の状況を考え、その作戦に協力をしました。月の民で祭祀を司る一族である秋田(アキタ)の指示に従って、大伴は祁連山脈の南にある青海へ向かい、そこに潜む竜を倒して祭器(玉)を持ち帰りました。阿部は烏達渓谷の自然環境を調べ作戦の詳細を詰めました。そして、温姫は成人となり、秋田から「弱竹(ナヨタケ)」という、正式な月の巫女の名を贈られるのでした。

 これらの準備の上に行われた烏達渓谷の戦いは、ただ一つのことを除いて、すべてが彼らの思うとおりに運び、月の民の大勝利となりました。

 その思い通りにならなかったただ一つのこととは・・・・・・、月の巫女の力を使いきった弱竹姫が、完全に消えてしまったということでした。

 月の民の者は、自分たちは死して月に還るものと信じています。つまり、死んでも月でまた会えるということが、彼らの救いなのです。でも、完全に消えてしまったとしたら? 

 この戦いの後で、弱竹姫に淡い恋心を抱いていた大伴や阿部は、必死になって月の巫女について調べました。そこで分かったことというのは、「月の巫女とは精霊の力を溜める器であり、その力の行使の代償として、溜めた力が消えるのと同時に記憶や経験も消えてしまう。その最たる場合は、全ての力を使い果たした場合で、その存在そのものが消えてしまうのだ」ということでした。

 この事実にたどり着いた大伴と阿部は誓うのでした。もうこんな悲しい思いはしたくない。月の巫女が月に還れる方法を見つけようと。そしてもう一度、弱竹姫と月で逢うのだと。

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