コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ④(「月の砂漠のかぐや姫」第42話から第45話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ④】

 思い出話に続いて、大伴は自分が砂漠で見た異様な光景を説明しました。砂嵐で埋め尽くされてしまわぬように、何者かが壁を立てて羽と竹姫を守っていたような、自然にはありえない形をした半丘状の砂丘。それは明らかに、竹姫が月の巫女の力を使ったことを、大伴に示していたのでした。

 では、なぜそのことを、大伴は竹姫に話さなかったのでしょうか。

 今の月の民の単于、つまり王は、あの御門でした。彼も大伴や阿部と同じように、烏達渓谷の戦いの後に、月の巫女の力について調べを進めていました。でも、彼が調べを進める目的は大伴と阿部のそれとは違っていて、月の巫女を月に還すためではなく、その力を利用するためなのでした。そのため、大伴と阿部は、単于たる御門に知られぬように苦労しながら、月の巫女を月に還す方法を探しているのでした。

「俺がお前たち二人を見つけた場所は、とてもあり得ない形をした砂丘のすぐ下だった。あれは間違いなく、竹姫が月の巫女の力を使って、羽磋、お前と自分たちを守ったのだ。俺はできるだけそのことを周りに伏せておきたかったので、竹姫や皆に対しては、お前たちが熱を出して倒れていたと話したのだ。それに、竹姫に月の巫女の力について話すということは、自分は単なる器としての存在で、しかも力を使い果たすと消えてしまうという、月の巫女の悲しい宿命についても触れなければならない。できることならば、竹姫にはそのような話はしたくないのだ。だが、竹姫が月の巫女の力を使ったことを御門殿に知られるのは、時間の問題だろうがな」

 大伴はそのように羽磋に話しながら、宿営地のほうを見るように促しました。そこでは、大伴が砂漠で見かけた至徳という女性が、一人の男に何事かを言伝て送り出していました。至徳は、貴霜族の月の巫女である竹姫に変わった動向があれば報告するようにと、ある人物から命を受けていたのでした。

 月の巫女の力が、その器に溜まった精霊の力に比例するのであれば、今すぐに竹姫が御門に利用されるということはないだろうと、大伴は考えていました。ただ、その秘密に触れた羽磋について、御門がどのように考えるのかはわかりませんでした。

 阿部という自分の協力者の下へ羽磋を送り月の巫女の秘儀についての相談をさせること、そして、御門の目から彼を隠すことが必要だと大伴は考えました。そこで、大伴は羽磋を成人させること、また、幹部候補生として肸頓族へ派遣するということの許可を貴霜族の族長から得るために、急いで貴霜族の根拠地まで馬を走らせ、今日の朝に遊牧隊の宿営地へ戻ってきたところだったのでした。

「羽磋、肸頓族へ行け。そして、今はその族長になっておられる阿部殿に会うのだ。阿部殿はとても聡明な方だ。きっと、月の巫女を月に還す方法を示してくれる」

 考え込む羽磋に対して、大伴は自分の短剣を差し出しました。その鞘には「大伴」の名が彫られていました。肸頓族の族長である阿部に会ったときに、羽磋が大伴の息子であることを証することができるようにと、自分の愛刀を手渡したのでした。

 大伴の話は終わりました。

 羽磋は、その話を自分の中に落とし込むのに、とても苦労していました。

「月の巫女とは、つまり器だと父上は言う。精霊の力を溜めるための器。その力を使うと記憶や経験の一部が消えてしまう。終いには、その力を使い果たすと、器である月の巫女そのものまでも消えてしまう。竹は、月の巫女だ。竹が消えてしまう? そんなことは嫌だ。消えてしまうっていうことは、最後に月に還ることもできないということじゃないか。待てよ・・・・・・。経験や記憶の一部が消えてしまうって・・・・・・、ひょっとしてっ」

 羽磋は、これまでずっと頭の一部で「どうして竹はあの大事な約束を忘れてしまったのか」と考え続けていました。その答えがいま、彼の頭の中で急に組み上がったのでした。

「まさか、大事な約束や俺が贈った名前を竹が忘れていたというのは、砂漠でハブブに襲われたときに俺たちを守ろうと月の巫女の力を使って、そのために記憶を失ってしまったのでは・・・・・・」

 羽磋の脳裏に、あの夜の砂漠での出来事を必死に説明する自分の言葉を、真剣に聞き取ろうとする竹姫の姿が思い浮かびました。その竹姫の身体は・・・・・・。ああ、そうです、砂漠で竹姫が負ったはずの大怪我さえもが、完全になかったことになっていました。

「ああ、竹は忘れていたんじゃなかったんだ。俺との約束を、俺自身を、軽く見ていたわけでもない。俺の夢を竹が喜んでくれたというのも、俺の思い違いなんかじゃないんだ。竹の中で無かったことになっているんだ、あの夜の知識と経験が。ああ、ごめん、ごめんよ、竹。それなのに、俺はあんなにひどいことを言ってしまった」

 羽磋が気づいたとおりなのでした。竹姫は彼らを護るために月の巫女の力を行使しました。その結果、あの夜の出来事を失ってしまったのでした。そして、彼女が失ったものの中には、二人の大切な約束や羽が思いを込めて贈った「輝夜姫」という名も含まれていたのでした。

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