コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ㉓(「月の砂漠のかぐや姫」第100話から第102話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ㉓】

 改めて問われてみると、王柔にも冒頓の言うことはよくわかるのでした。

 理亜の現状がいつまでも続くという保証など、どこにもありません。それがヤルダンに働く精霊の力によるものだとしたら、そこから離れていることが、悪い方向に働くことも十分に考えられます。

 でも、だからと言って、ヤルダンに踏み込んで行くことが正しいということになるのでしょうか。それが、決定的な出来事につながる恐れもあるのではないのでしょうか。

「僕は、ただ理亜を大事にしてほしい、それだけなのに・・・・・・」

 王柔は、もう何もわからなくなってしまいました。どちらを選んでも、その選択によって何か悪いことが起きそうで、とても選ぶことができません。

 もともと、問題が生じたときにどう対処するのかは大人たちが決めてくれる、そう思っていた王柔は、大事なことに気が付いていなかったのでした。それは、何かを決めるときに生じる「責任」でした。自分の行動を他者に決めてもらうということは、自分が取るべき責任までも他者に負わせることだということを、考えたこともありませんでした。

 ですから、いざ自分自身で大事なことを決めなければならなくなると、その責任のあまりの重さに押しつぶされそうになり、身動きできなくなってしまったのでした。

 小部屋での話し合いは、ずいぶんと長いものになっていました。相変わらず酒場の方からは、交易隊の各員が上げる楽しそうな大声が聞こえてきていますが、明り取りの窓から差し込んでくる日の光は、その境界が判らなくなるほどぼんやりとしたものになってきていました。まだ外は暗くはなっていませんが、ヤルダンが広がるその先では太陽が没しようとしているのでしょう。

「ふぁぁ・・・・・・」

 椅子に腰かける理亜の口から、小さなあくびがもれました。いつも日暮れと共に訪れる堪え難い眠気が、今日もやってきたのでした。

「おう、お嬢ちゃんは眠くなっちまったか」

 彼女の変化にいち早く気が付いたのは、その正面にいる冒頓でした。彼はできるだけ優しい声を出して、王柔が理亜の変化に気が付けるように配慮しました。

「今日は疲れちゃったね、理亜。ゆっくりお休み」

「ん、オージュ。おやすみなサイ・・・・・・」

 理亜の体からどんどんと力が抜けていくのと同時に、彼女の体の輪郭もぼやけていきました。さらに、その体を透して反対側の様子が見えるようになってきて・・・・・・。最後には、彼女の体は、椅子の上から完全に消えてしまいました。

 さっきまでここに理亜がいたことを示すものは、小部屋にいる者の記憶だけになってしまいました。

 

 

「わかりました。みなさんの言う通り、理亜をヤルダンに連れていくのが良いと、僕も思います」

 目の前で理亜が消えていくところを見て、改めてその状態の危うさに気づいたのでしょうか。自分が下した決断を消え入りそうな声で告げると、王柔は疲れ切った様子で自分の椅子に座りました。

「小野の旦那、王柔も納得してくれたようだぜ」

 そんな王柔にはもう用がないとでもいうように、冒頓はすぐさま小野に話を戻しました。それを受けて、小野は手早く話をまとめることにしました。

 ・・・・・・留学を急ぐため、羽磋は交易隊を離れ吐露村へ立つ。護衛隊をその警備のために付け、ヤルダンの案内人として王柔が付き、理亜も同行する。一行はヤルダンと理亜の体に起きている怪異の原因とみられる母を待つ少女の奇岩を目指す。ヤルダンを無事に抜けたら、王柔と護衛隊の半分は土光村に戻り報告を行う。残りの半分は羽磋を吐露村まで安全に送り届ける。小野の交易隊は土光村での荷のやり取りが終わったら、ヤルダンを抜け吐露村へ向かうので、最後はそこで全員が合流することになる・・・・・・。

 

 

 長い話は終わりました。

 出入り口に一番近いところに座っていた羽磋が扉を開くと、明り取りの窓から風がさぁっと吹き込んできました。その風を感じた後で急に体が軽くなったことで、羽磋は自分の心と体がすっかりと凝り固まっていたことに気がつくのでした。

「急な出立になりますから、明日、私と一緒に、土光村の代表者にご挨拶にいきましょう」

 小野は羽磋の背を押して部屋を出ながら、声を掛けました。

 それは、せっかくの他部族への留学の機会を生かして、できるだけ多くのつながりを羽磋に持たせてやりたいという、小野らしい気配りから出た言葉でした。

 羽磋にも小野の配慮は十分に伝わりました。振り返って小野に感謝を伝えたときに、王柔を部屋に残したままで、王花が扉を締めたことに気が付きました。

「王柔殿、大丈夫でしょうか」

「いいのよ。ああ見えて、王柔は頑張れる子だから」

 羽磋の顔に浮かんだ心配に気が付いたのでしょう。王花は優しく答えました。これまで王柔のことを見守ってきた王花にとっては、王柔が自分の考えを堂々と主張したことを嬉しくも思っているのでした。

 部屋の外でそのような会話がなされていることに、王柔が気付くはずもありませんでした。

 彼は小部屋の中の自分の椅子に腰かけたまま、自分の心の中を彷徨っていたのです。

「冒頓殿が話した言葉は、的を射ていたのではないか。みんなに理亜のことをお願いするばかりで、自分がどうするかなんて考えてなかったんじゃないか。そりゃ、実際には、王花さんや小野殿や冒頓殿が、いろんなことを決めるんだろう。だけど、僕がどうするか、どうしたいかは、もっともっと、考えないといけないんじゃないか。僕にも何かできることがあるかもしれないじゃないか・・・・・・」

 王柔は考えました。繰り返し繰り返し考え続けました。

 酒場での酒宴が終わり、後片付けをする人の気配が消えてしまった後も、王柔は小部屋の中で考え続けるのでした。

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