コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ㉔(「月の砂漠のかぐや姫」第103話から第105話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ㉔】

 翌日の朝を、羽磋は天幕の中で迎えました。その天幕は、土光村に留まる間、小野の交易隊の者が寝起きする場所として、村の外に設置されたものでした。

 荷物は倉庫に搬入したものの、交易隊にはたくさんの駱駝や馬がいます。それに、隊員たちを宿屋に泊めるには費用も掛かります。ですから、小野の交易隊を始めとして、ほとんどの交易隊は、土光村の外に宿営地を設営するのが常なのでした。

 

 

「羽磋殿、おはようございますぅ。どうっすか、体調は。俺、頭が痛いんすよ・・・・・・」

 交易隊員に交じって駱駝の世話をしている羽磋に、苑が話しかけてきました。彼はひどく頭が痛むようで、しかめ面をしながら、片手で頭を押さえていました。

「おはよう、小苑。そうか、昨日は初めての酒場だったんだな。ちょっと、飲みすぎたんじゃないか?」

 羽磋が苑と別れた段階で、既に彼はかなり酔っていました。しかも、彼はその後も、先輩から注がれる酒を飲み続けていたようなのです。

 明らかに、苑は飲み過ぎました。

 人生で初めての酒場を経験した次の朝に、苑は人生で初めての酷い二日酔いを経験しているのでした。

 そんな苑に、先輩達がにやにやとしながら声をかけてきます。「先輩に飲まされてつぶれる」というのは、自分たちもかつて通った道ですから、苑のことを怒る人はいません。ただ、面白がってからかったり、「迎い酒」を勧める人はいましたが・・・・・・。

 

 

 一通り駱駝たちの世話が終わったところで、隊の今後の予定について、小野からの伝達が行われました。これは、昨晩に小部屋の中で話し合われたことを基にしたものでした。

 羽磋が隊を離れることを聞いた苑はとてもびっくりして、羽磋の護衛として自分も同行したいと勢い良く立ち上がるのですが、たちまち気分が悪くなり、口を押えながらしゃがみこんでしまいました。

「羽、羽磋殿。俺も、一緒に・・・・・・・。オ、オウエエェ・・・・・・」

「大丈夫か? 水でも飲んで、大人しくしとけよ。無理するな」

 羽磋は苑の頭をポンと叩くと、その場を離れました。それは、小野と一緒に、この村の責任者に挨拶をしに行くためでした。

 

 

 盗賊などの襲撃を警戒して、土光村の周囲には高い土壁が設けられ、入り口には門番が立っていました。その門を抜けると、とても広い道が村の中心へまっすぐに伸びていました。

 土光村は交易路の中継地として栄えている村で、大小さまざまな交易隊がこの地を訪れます。この大通りの両側には、土光村に滞在している交易隊が他の交易隊と荷のやり取りをしようと品物を広げていましたから、異国から運ばれてきた品物を見に来る村の人や掘り出し物を探す交易人らが集まり、とても混雑していました。

 小脇に包みを抱えた小野は、小魚が水草の間をすいすいと泳ぐように、その人込みも苦にせず進んでいきます。小柄な羽磋が、同じく小柄な小野についていこうとするのですから、少しでも目を離せば、人込みの海の中で見失ってしまいそうでした。

 でも、両脇に並べられている遊牧生活で見たことのない品物は、羽磋の興味を強く引くのです。小野に遅れないようについていきながらも、羽磋は何度も周りに視線を走らせるのでした。

「あ、あれ?」

 その時、羽磋の視界の端に、気になるものが入ったような気がしました。

 ひょろっとした背の高い月の民の男が、赤髪の異国の少女を連れて歩いている・・・・・・。それは、羽磋が昨日初めて会った、王柔と理亜に見えました。ただ、すぐに人波に消えてしまったその二人は、王花の酒場の方でもなく、交易隊の荷が保管されている倉庫の方でもなく、村の外れの方へと歩いていくように見えました。

「ひょっとしたら、見間違いかな。・・・・・・あ、すみません、小野殿。私はここです。すぐに行きますっ」

 自分が目に止めたもののせいで、なんだか心がもやもやして歩みを遅くしてしまった羽磋でしたが、先を歩く小野に呼ばれて我に返るのでした。

 

 

 人で溢れんばかりの大通りを抜けて村の中心部に入っていくと、周囲の建物の様相が変わってきました。

 そこには、土壁で広い敷地を囲い、中庭といくつかの建屋を持つ、立派な家が並んでいました。おそらくは、この一角は、村の責任ある立場の人たちが住むところなのでしょう。

 小野が立ち止まったのは、その中でも飛びぬけて広い敷地を持つ館の前でした。この館こそが、土光村の代表者である交結(コウユ)の館なのでした。

 館の立派な門の前で、羽磋は小野から与えられた注意を思い出しました。

 それは、「月の巫女の力については知らないことにする」ということと、「ヤルダンに起きている問題の詳細は知らないこととする」ということでした。

 月の民全体の単于(王)である御門は、積極的に月の巫女の力を利用しようとしています。一方で、阿部や大伴は、表面上はそれに従いながらも、月の巫女を月に還すために動いているのです。羽磋に与えられた注意は、羽磋の存在が御門の注意を引くものとなり、その争いの中に巻き込まれることがないようにという、小野の配慮なのでした。

「でも、この村の代表者の方は阿部殿と同じ肸頓族で、御門殿は双蘼族の方です。月の民全体の単于とは言っても、他部族の村長にまで御門殿の力が及ぶのでしょうか」

 月の民は、国とは言ってもたくさんの部族の緩やかな集合体ですから、通常であれば単于(王)が指示を出すのは、各部族の長に対してです。羽磋が疑問に思うのも当然のことではありました。

「この村の代表者の交結殿は、とても気さくで、非常に人当たりの良い方です。それに隠し事のできない方でして」

 羽磋の疑問に、小野は丁寧に答えました。

「交結殿が直接教えてくれたのです。交易路の中継地であるこの村には多くの情報が集まります。だからでしょうね。月の巫女の祭器に関する情報が手に入ったらすぐさま知らせるようにと、阿部殿を飛び越えて、御門殿から直接に依頼があったそうです」

 驚きを隠し切れない様子の羽磋に対して、小野は軽く頷いて見せました。その頷きで、小野は「ね、隠し事のできない方でしょう」と言うのでした。 

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