コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ㉖(「月の砂漠のかぐや姫」第109話から第110話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ㉖】

  小野の困った顔の下に、このような思いが隠されていようなど、交結にわかるはずもありませんでした。

 彼はとても気のいい人でしたから、万が一「火ネズミの皮衣」が偽物であった場合に、自分の主人である阿部が本物と偽物をすり替えたと御門から疑われることを心配する、小野の忠実さに感動して、何とか力になってやれないかと考えるのでした。

「ああ、そうです。小野殿、私がこの荷に改めの封をいたしましょう」

「おお、お願いできますか。交結殿の改め印をいただければ、安心です。誠にありがとうございます。主人に代わってお礼を申し上げます」

 交結の提案は、包みを縛っている紐の結び目に蜜蝋をかけて固め、それに交結の印を押して封をしようというものでした。

 これは、大事な荷を送ったり、誰かに託したりするときに用いられる方法でした。蜜蝋で封をされた包みから中の荷を取り出すためには、封を破らなければいけませんが、印を持っていない限り再度封印することはできません。つまり、あらかじめ送り手と受け手の間で、印で封をして荷を送るという取り決めをしておけば、途中で荷のすり替えをされる心配をなくすことができるのです。

 また、そのような取り決めがなくとも、封をされた荷を受け取った者は。施封された時点から今までの間、荷の中身には誰も触れていないことを知ることができます。

 月の民の単于(王)である御門は、自らの国の重要な村の一つである土光村の代表者である交結の印を知っていましたから、交結が封をし改め印を押すことによって、彼が中身を改めた後で誰も開封していないことの、立派な証明になるのでした。

 もちろん、施封をしてしまえば、包みの中身を阿部が見ることはできなくなってしまいます。でも、「御門の命に従って月の巫女の祭器を探す」ということが阿部の表向きの態度ですから、命令に従順に従っているという印象を与えるには、むしろ好都合とさえ言えるのかもしれませんでした。

「助かりました、交結殿。主人である阿部に報告したのち、この荷は必ず主人から御門殿に届けます。是非、御門殿によろしくお伝えください。誠にありがとうございました」

 思惑通りに事を運べた小野は、何度も何度も交結に礼を言って、館を後にするのでした。

 

 

 太陽が大地に小野の影を黒々と映し出していました。その影は、小脇にしっかりと包みを抱え込んでいました。

 小野は、秦でこの「火ネズミの皮衣」を手に入れたと交結に話していましたが、いったいどこでこれが偽物だと知ったのでしょうか。

 実は、これが偽物であることを見破ったのは、彼の同志である大伴だったのです。

 秦から吐露村へ戻る長い旅の途中で、小野が補給の為に立ち寄った村が讃岐村でした。そして、そこに偶然滞在していたのが大伴でした。大伴は、自分の息子である羽の成人と彼を肸頓村へ出すことの許可を求めに、讃岐村にいる貴霜族の族長の元を訪れていたのでした。

 その晩、小野の天幕の中でのこと、珍しく興奮している小野を制して、大伴は自分の皮袋から兎の面を出して被りました。そして、固唾をのんで見守る小野に、こう告げたのでした。

「小野殿、大変残念ですが、これは偽物です。何の力も見て取れません」

と。

 小野にとっては、自分が苦労して手に入れた祭器が偽物だったということは、大変辛い宣告でした。

 でも、これは正に精霊が導いてくれた出会いだったのかもしれません。

 この出会いがなければ、小野は偽物の「火ネズミの皮衣」を本物として主人に届けるという、大失態を演じるところでした。また、大伴にとっても、自分の息子である羽磋を肸頓族へ送る手段を得ることができず、途方に暮れなければならないところでした。 

 

 

 大伴が「火ネズミの皮衣」の鑑定に用いた兎の面。

 それは、月の民の中で、月の巫女に関する祭事を司っている秋田が被っている面で、「この面を被ることで精霊の力の動きを見ることができる」といわれているものでした。

 この面の裏には、持ち主の名が幾つも彫られていました。その名の並びの末尾、「大伴」という名の次に自らの名が彫られている、面の当代の持ち主である若者は、秋空の下を歩きながら、風に浮かぶ羊のような雲を見上げつつ、大きな伸びをしていました。

 その若者とは、出立の折にこの面を大伴から受け継いだ、羽磋でした。

 

 

 羽磋は、交結に対しての留学の徒としての挨拶を終えると、小野を残して先に館を出ていました。

 如何に留学の徒が将来を期待された幹部候補生と言えども、相手は自分よりも小野よりもずいぶんと年上で、この大きな村の代表者を長年務めている交結ですから、挨拶をするための短い時間が与えられただけでも、幸運なことなのでした。

 やはり、自分よりもずっと目上の人への挨拶に、緊張していたのでしょう。交結の館からの帰り道では、羽磋の気持ちはとても軽くなっていて、再び戻ってきた大通りでは、周りで交わされる人々の会話や露店の様子などに気を向けるだけの余裕が生じていました。

「いやはや、珍しいものばかりだな。月の民の国の中でも、こんなに珍しいものがたくさん見られるのだから、他国へ旅をしたらいったいどのようなものを目にできるのか、想像もできないな」

 物珍しそうにあたりをきょろきょろと見まわしながら歩く羽磋は、ここに並べられている荷の種類の多さに圧倒されていました。また、それが運ばれてきたはるか遠くの国の景色を想像すると、世界のいろいろなところを旅したいという、輝夜姫の願いが思い返されるのでした。

 その時、見知った二人連れが、羽磋の視界に入ってきました。

「あ、あれ。王柔殿に理亜じゃないか?」

 羽磋は二人を見つけて嬉しくなりました。

 もっとも、この嬉しさは、単に人込みの中で見知った者に出会ったからだけではありませんでした。

 羽磋は明確な感情としてではなく、もやもやとしたものとしか意識していなかったのですが、朝方に王柔と理亜が村外れに向かうのを見かけたときに、心の底に疑念を生じさせていたのです。その疑念とは、「王柔が理亜を連れて逃げ出そうとしているのではないか」、というものでした。

 ですから、挨拶を終えて天幕に戻るときに、あちらも用事を済ませたのか、村外れから戻ってくる途中の二人に出会えたことで、心の奥の黒い塊が解消されて嬉しくなったという訳なのでした。

「王柔殿、理亜っ! こんにちは。どこかへお出かけだったのですか」

「あ・・・・・・、ああ。羽磋殿、こんにちは」

 嬉しそうに、元気よく王柔に声をかける羽磋。

 でも、羽磋とは正反対に、羽磋に気が付いた時の王柔の顔にさっと浮かび上がったのは、喜びとも驚きともと違う何かでした。 

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