コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ㉗(「月の砂漠のかぐや姫」第111話から第113話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ㉗】

「私はこの村の代表者のところへご挨拶に伺って、今はその帰りなんです。実は、今朝も、その代表者のところへ行く途中で、王柔殿と理亜殿をお見掛けしていたんですよ。どちらに行かれていたんですか」

「あれ、そうだったんですか。羽磋殿に、全く気がつかなかったなぁ」

 王柔は、照れたような、あるいは、苦々しいような、複雑な表情を浮かべました。それは、隠そうという本人の意思にもかかわらず、笑顔の仮面の下から漏れ出てしまった本心でした。

「ええ、まぁ、ちょっと。明日は出発ですし、色々と準備を」

 そのような話を王柔がとっさにしてしまったのは、何も深い考えがあってのことではありませんでした。ただ、ちょっとだけ、話しづらいことがあっただけなのでした。

 王柔の横では、理亜が「はんぶーん、はんぶん。はんぶんナノ。ぶんぶーん」と、小さな声で適当な唄を歌っていました。

 そのまま大通りを並んで歩いた羽磋たちでしたが、通りの端に来ると別れることになりました。羽磋は村の外の天幕へ、王柔たちは王花の酒場へ行くためでした。

 小柄な体格をした、明るく元気だが生真面目な面もある羽磋。月の民の五大部族の一つ、貴霜族の若者頭である大伴の息子で、留学の徒。

 ひょろりと背の高い、自分に自信がなくて気弱な王柔。異民族である烏孫族の出身で、王花の盗賊団の一員でヤルダンの案内人。

 生まれも育ちも性格も全く異なる二人でしたが、共通するところもありました。それは、二人とも「守りたい女性」があるということでした。

 日頃から「魔鬼城」と呼ばれるヤルダン。今は、精霊の力が乱れ、不可思議な出来事が起きていると思われる場所です。

 明日は、そのヤルダンに向かって、二人が足を踏み出す日なのでした。

 

 

 次の日の早朝のことです。土光村から吐露村へ向けて、小規模の交易隊が出発しました。

 交易隊の先頭に立つのは、ナツメヤシのように細く背の高い男で、彼は白の頭布の上に赤い布を巻きつけていました。その若い男は右手で駱駝を引きながら歩いていて、駱駝の上には旅装束に身を包んだ小柄な人物が乗っていました。太陽から身体を守るためか、その人物は目深に頭巾をかぶっていました。

 赤い頭布を巻いた男の傍らには、小柄でいかにも身の軽そうな少年が、こちらは馬を引きながら歩いていました。

 通常の交易隊であれば、先導する者に続いて、荷を積んだ駱駝とその世話をする男たちが、川のように長い列を作ります。でも、この交易隊はかなり小規模で、大空を周回するオオノスリの目から見れば、ゴビを削りながら流れる川どころか、その一角で足跡を刻むスナヘビ程度の長さにしか見えないのでした。

 この隊は、羽磋と王柔、それに冒頓が率いる護衛隊、さらに荷を積んだ駱駝を連れた男たちで構成されていました。もともとは荷を運ぶ交易隊員が同行する予定はなかったのですが、羽磋を吐露村まで送り届けるのであれば、吐露村へ送ることが決まっている荷もそれに合わせて送ってしまおうと、小野が決めたのでした。

「思っていたよりも、大規模な隊になりましたね、王柔殿」

「ええ、そうですね。でも、空荷は交易を行う者が最も嫌うものですから、小野殿は始めからこうされるおつもりだったのかもしれませんね」

「なるほど、そういうことなんですか。すごいですね、王柔殿は。私とそんなに年も変わらないのに、いろいろなことをご存じで」

「羽磋殿のような方にそんな風に言われると、なんだか恥ずかしくなってしまいますよ。僕はもう、本当に駄目駄目で・・・・・・」

 誉め言葉に恐縮して下を向く王柔でしたが、羽磋は彼のことを悪く思う気持ちは少しも持っていませんでした。むしろ、勇気を振り絞って理亜の為に頑張る王柔のことを見て、自分もそうでありたいと思うのでした。

「理亜殿の為に王柔殿がなさったことは、とても立派なことだと思います。理亜殿が奴隷の立場から解放されたことも、王柔殿のお陰ですし。それに何よりも、ほら、理亜殿を見てくださいよ」

「理亜を、ですか」

 王柔が見上げた駱駝の上の人物は、機嫌よさげに鼻歌を歌っていました。

「ぶんぶーん、はんぶんナノー。はんぶん、ぶん・・・・・・、ん、ナニ、オージュ」

「いや、理亜、はしゃぎすぎて駱駝から落ちないようにな」

「ハイハーイ、大丈夫だヨー」

 王柔が自分を気遣ってくれるのがとても嬉しいようで、理亜の声は弾んでいました。

「理亜殿、とても嬉しそうですよ。確かにいまは色々と大変な状況ですけど、これまでに王柔殿がなされたことは間違ってなかったと、理亜殿が証明してくれていると僕は思います。

「そう、ですか・・・・・・」

「ええ、そうですよ!」

 理亜は確かに心配な状況の中にいます。でも、あのような安心しきったような微笑みを浮かべている理亜が、幸せでないわけでない。だから、これまでに王柔がしてきたことは、間違ってはいないんだ。そのような確信を持つ羽磋の言葉は、とてもはっきりとしていて力強いものでした。

 

 

「先頭の方は何やら楽しそうだなぁ。どうだ、小苑、お前も話に加わってくるか?」

「え、いいんすか? え、いやいや、遠慮しとくっす。今は仕事中っすから」

 交易隊の真ん中で、先頭の二人を遠めに見ながら話をしているのは、冒頓と苑でした。

 苑としては、土光村までの旅の途中で自分が仲良くしていた羽磋を、王柔にとられたような気がして、面白くないのも事実でした。でも、彼は、先頭に走っていこうとする自分の身体を、必死に押しとどめていました。なぜなら、今は周囲の警戒の為に、オオノスリの空風を飛ばしている最中なのですから。

 複雑な表情をしながら上空を仰ぎ見ている苑を、冒頓はいかにも楽しそうな表情で眺めていました。その表情には、弟のようにかわいがっている苑にちょっかいを出して楽しむ気持ちと、彼がしっかりと仕事を行っていることに成長を感じる気持ちの両方が、交じり合いながら浮かんでいました。 

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