コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ㊲(「月の砂漠のかぐや姫」第133話から第134話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ㊲】

 

 はんぶんだ はーんぶん

 

 僕の前には 女の子

 初めて会った 女の子

 赤い髪した 女の子

 母さん待ってる 女の子

 

 はんぶんだ はーんぶん

 はんぶんだ はーんぶん

 

 月の砂漠に 風が吹き

 空の星たち 隠してしまう

 赤土岩山 陽が照らし

 黒い影が 地の色変える

 

 はんぶんだ はーんぶん

 

 一つと一つは 一つが二つ

 一つと一つは 二つが一つ

 二つを割ったら 半分が二つ

 二つを割ったら 一つが二つ

 

 はんぶんだ はーんぶん

 はんぶんだ はーんぶん

 

 天山お山は 雪被り

 ゴビの砂漠に 水走る

 ヤルダンの上じゃ 砂が舞い

 清き流れが 地下走る

 

 はんぶんだ はーんぶん

 

 まんまんまんまる お月様

 はんぶんはんぶん お月様

 ほっそいほっそい お月様

 まっくろまっくろ お月様

 

 はんぶんだ はーんぶん

 

 一つと一つは 一つが二つ

 一つと一つは 二つが一つ

 二つを割ったら 半分が二つ

 二つを割ったら 一つが二つ

 

 はんぶんだ はーんぶん

 はんぶんだ はーんぶん

 

 

 王柔は、よほど繰り返しこの唄を聴かせられていたのでしょう。彼は一度も詰まることなく、すらすらと唄の詩をそらんじて見せました。また、詩の中で「はんぶん」という言葉が出るたびに、横にいる理亜が「はんぶんナノー」と小さな声で合わせるのがとても愛らしく、周りの者の表情を柔らかくするのでした。

 でも、理亜のしぐさを見て幾分緊張がほぐれたかのような一同の中で、冒頓だけは真剣な顔をしながら何かを考え込んでいるようでした。

「王柔、おめぇ・・・・・・」

「は、はい、すみませんっ」

「なんだ、おめぇ。何を謝ってんだ。誰も怒ってやしねぇぞ。王柔、おめぇ、自分で思っているよりも、すげぇ仕事をしてくれたのかもしれねえぜ」

「は、はぁ。そうなのですか、冒頓殿」

 冒頓から「何を意味のないことをしていたんだ」となじられることを覚悟していた王柔は、自分の行動を認める言葉を聞いて、拍子抜けを通り越して当惑すら覚えるのでした。

 王柔への用件は済んだとでもいうかのように、自分の考えの中に深く潜っていってしまった冒頓に、護衛隊の者が恐る恐る声を掛けました。それは、これからの隊の行動をどうするかについてでした。

「ああ、そうだな、ちっ。決めなきゃいけねえなぁ」

 そうなのです。今後の行動を決めなければいけないのでした。

 交易路で受けたサバクオオカミの砂岩の奇襲は、ヤルダンの外で野営をしたとしても危険があることを示していました。でも、この隊を率いては、日中の内に母を待つ少女の奇岩のところまでは到達できません。少し前であれば、馬上の者だけを率いて、そこまで先行することができたかもしれませんが、それも今からではとても無理です。

「仕方ねぇな、隊全体で行けるところまで進むか。よし、おめえら、隊列を組みなおして行くぞっ。ひょっとしたら、進んでいる最中や野営の時に、また奴らに襲われるかもしれねえ。だけど、もうわかっただろ。油断しなけりゃ大丈夫だ。しっかり気を引き締めていくとしようぜ」

「おおうっ!」

 冒頓の声は、隊員たちの心に残っていた不安を溶かすだけの強さを持っていました。隊員たちから大きな声が上がると、交易隊は再び活気づくのでした。

 しかし、この時に、冒頓の考えから抜け落ちていたものがあったのでした。

 ひょっとしたら、いつもの彼であれば、そのことにも気が付いていたかもしれません。でも、今の彼の頭の中は、王柔から聞いた話を分析することに、多くの部分が回されていたのでした。

 冒頓は後に、この時に自分が下した決断を、強く悔やむことになるのでした。

 

 

「・・・・・・ア・・・・・・イツ、アイツ・・・・・・、ジャマダ・・・・・・」

 恐ろしいまでの強い怒りが、その場所には巻き起こっていました。

 ゴビの赤土の上にいくつもの大きな砂岩が転がっているその場所では、勢い良く吹き抜けた風が、獣の叫び声のような奇妙な音を立てていました。太陽が送り出す強い光に長い期間さらされていたためか、そこにある砂岩の一部は、赤茶色の色が抜けて太陽の光の色に近い黄色になっていました。そして、その風や砂岩が、何処かに生じた強い怒りの力によって、ビリビリと震えているのでした。

 乾燥と灼熱という厳しい環境であるゴビの砂漠とは言え、そこには環境に適応した生き物がおりますし、翼ある生き物はそれを捕らえんと上空から目を光らせています。

 しかし、そこにあまりにも強い怒りが生じているからでしょうか。いつもなら、日光を避けて夜になってから活動するサバクトカゲは、砂の中からその姿を現し、水面を泳ぐようにするすると赤土の上を走って、その場所から離れていきました。また、獲物となるものを探して上空を旋回していたハイイロヒゲワシも、何かに怯えたように急に方向を変えて飛び去って行きました。

 また、極度に強い怒りは、形となってこの世界に現れることができるのかもしれません。太陽の光や風の動きが何かに遮られてしまったのかのように、その一角は他の場所に比べてどこか暗く、そこを通り抜ける風はひどくゆっくりとしているようでした。

 その場所こそが、王柔たちが目的としている場所、ヤルダン魔鬼城の一角にして、「母を待つ少女」の奇岩が立つ場所なのでした。

 もちろん、そこにどこからかの交易隊や旅人がいるというわけではありません。そのような無人の場所で、誰かが誰かに怒りを覚えることなど、あろうはずがありません。でも、そこに在る空気は確かに、日光に晒された砂漠の砂のように熱い「怒り」で満たされていましたし、もしも、そこを通る者があれば、「アイツ、ジャマダ」という言葉さえもが、耳を通じてではなく心に直に響いてきたに違いがないのでした。

 オオオオ・・・・・・、ウウゥウウウ・・・・・・。

 いま確かにその場所で、低い唸り声が上がりました。

 ガラン、グァラン・・・・・・。

 焼けて黄色くなった砂岩の肌が割れて、大きな塊がいくつもゴビの上に転がり落ちました。転がった砂岩の塊の内の幾つかは、何かに引っ張られていくかのように、母を待つ少女の奇岩の方へと転がっていきました。そして、彼女が長く落としている影の中に入った塊は・・・・・・、ぐるぐると不自然に回転しだしたかと思うと、なんと自ら大きさや形を変えて、四つ足の獣へと変貌していくのでした。

 影の中で姿を現したのは、王花の盗賊団を傷つけ、冒頓が指揮する交易隊を襲った、あのサバクオオカミの奇岩でした。 

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