コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

月の砂漠のかぐや姫 第162話

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(これまでのあらすじ)

 月の巫女である竹姫と、その乳兄弟である羽磋。月の巫女としてではなく、素の自分の居場所が欲しいと頑張る竹姫に、羽磋は「輝夜」(かぐや)の名を贈り、自分が輝夜を望むところに連れて行くと約束します。それは二人だけの秘密でした。しかし、大砂嵐から身を守るために月の巫女の力を使った竹姫(輝夜姫)は、その大事な秘密を忘れてしまいます。月の巫女はその力を使った代償として自らの記憶・経験を失い、最悪の場合は、その存在が消えてしまうのです。それを知った羽磋は、輝夜姫が無事に生を全うして月に還ることができる方法を探すため、肸頓族の阿部の元へと旅立ったのでした。

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きっとん)族へ出されることとなった。大伴の息子。

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【第162話】

 

 

 ズッズズンッ! ビリビリビリィツ! 

 ズズンッ。グラングラアアァアン・・・・・・。

 

 

 冒頓がサバクオオカミの奇岩の群れを突き破り、今まさに反対側に出ようとしたその時のことでした。

 何の前触れもなく、冒頓たちの足元の大地が、大きく振動しました。

 それは、激しく揺れる馬上においても感じることができたほどの大きな揺れでした。

 突然に襲ってきた激しい揺れのために、騎馬隊の馬は体勢を大きく乱してしまいました。それに乗っている騎馬隊の男たちは、とても短剣を振り回す余裕などありません。とにかく落馬しないようにと、手綱や馬の首筋にしがみ付くので、精一杯でした。

 サバクオオカミの奇岩たちにも、驚きを感じる心があったのでしょうか。それとも、揺れる大地の上では騎馬隊に向けて飛び掛かることが物理的にかなわなかっただけなのでしょうか。いずれの理由かはわかりませんでしたが、彼らの騎馬隊への攻撃は一時的に止みました。そして、その間に、冒頓の騎馬隊は、待ち伏せをしていたサバクオオカミの奇岩の群れを突破することに成功したのでした。

 もっとも、ばらばらに襲ってくるサバクオオカミの奇岩は、隊列を組む冒頓の騎馬隊の敵ではありませんでしたから、このままサバクオオカミの奇岩の攻撃が続いていたとしても、騎馬隊は奇岩の群れを突破していたでしょうし、被害は奇岩の群れの方にたくさん出ていたでしょう。ですから、この突然の横やりが、冒頓とサバクオオカミの奇岩との、どちらに利をもたらしたかと言えば、微妙なところでした。

「ようし、抜けたっ。一時は肝を冷やしたが、うまい事言ったぜ。奴らがばらばらで飛び掛かってくるんなら、案外、このまま接近戦で押し切れるかもなっ」

 冒頓は、サバクオオカミの奇岩の群れをその真ん中から突き破り反対側に飛び出した後も、しばらくの間は馬を走らせ続けて、敵から距離を取りました。でも、これまでのように、弓矢を用いるために奇岩の群れから遠く離れようとするのではなく、思い切ってそこで隊を反転させました。

 先ほどは、サバクオオカミの奇岩の群れの後ろを取ろうと、大きな岩の塊に沿ってぐるりと回りこんだのですが、思いもかけずに敵に待ち伏せを仕掛けられてしまい、冒頓は背中に冷たい汗をかくことになってしまいました。でも、思い切ってその真ん中に突入してみたところ、こちらへの攻撃は一頭一頭からの散発的なものであり、護衛隊の男たちはそれを容易に短剣で切り伏せていくことができました。乱戦になるとこちらも危ないのかもしれませんが、今のように隊全体がひと固まりになって突っ込んでいけば、かなり優位に戦いを進められそうだと、冒頓は手ごたえを感じ取りました。

 このまま、もっとも有利な位置から矢を放つために距離を取ろうとして、サバクオオカミの奇岩と追いかけっこを続けていても、疲れを知らない奇岩が相手では、こちらが圧倒的に不利です。それであれば、接近戦が予想以上に有効であったことですから、馬の脚色にまだ疲れが見えない今のうちに、一気に勝負をつけてしまおうと考えたのでした。

 それにしても、先ほどの大きな揺れはいったい何だったのでしょうか。

 僅かな時間でしたが、大地全体が激しく揺れ、馬に乗る男たちはもとより、四肢で身体を支える馬やサバクオオカミの奇岩たちですら、自分の体が倒れないようにすることに集中しなければならないほどでした。

 実際に揺れていた時間は短かったと思うのですが、揺れが治まった今でも、冒頓の指示に従って愛馬を反転させた部下の顔には、その激しい揺れで引き起こされた驚きが残っていました。

 とは言え、激しい揺れは去りました。サバクオオカミの奇岩たちは、再び一塊の群れとなって自分たちの方へ向かってきています。騎馬隊の男たちは、弓矢は背面にしまい短剣をぎゅっと握りしめて、冒頓の号令があり次第、その群れの真ん中へ突っ込んでいけるように、態勢を整えていました。

「ようし・・・・・・、いや、ちょっと、待て」

 何かが、冒頓の頭の中をチクチクと刺激しました。それは一体何だろうかと、冒頓が自分の考えの流れをもう一度整理しようとしたその時、また、地面がブルブルと細かく震えだしました。

「ああ、そうだ、まだ終わっていないんだっ」

 冒頓は、怯えたように首を振る愛馬の体を軽く叩いてなだめながら、忌々しそうに呟きました。

 揺れが治まった、いったいどうして、そう言い切れるのでしょうか。

 怖いこと、異常なことは、早く去ってほしい。そのような弱い気持ちが、自然と自分の考えをゆがめているのではないでしょうか。

 大きな岩が落ちた、あるいは、空中に飛び出していた崖が崩れた、そのようなことで生じた揺れならば、一度治まればもう大丈夫と言えるでしょう。でも、これが地震であれば、この後に何度も揺れることもあるでしょうし、ひょっとしたら、もっと大きな揺れが起きることさえあるかもしれません。そして、激しく揺れる大地の上での戦いは、感情というものを持ち合わせてないように見え、四肢で大地に踏ん張って戦うサバクオオカミの奇岩に対してよりも、馬という感じやすい動物の上に乗って戦う騎馬隊の男たちに対して、不利に働くことは間違いないのです。

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