コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

月の砂漠のかぐや姫 第201話

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(これまでのあらすじ)

 月の巫女である竹姫と、その乳兄弟である羽磋。月の巫女としてではなく、素の自分の居場所が欲しいと頑張る竹姫に、羽磋は「輝夜」(かぐや)の名を贈り、自分が輝夜を望むところに連れて行くと約束します。それは二人だけの秘密でした。しかし、大砂嵐から身を守るために月の巫女の力を使った竹姫(輝夜姫)は、その大事な秘密を忘れてしまいます。月の巫女はその力を使った代償として自らの記憶・経験を失い、最悪の場合は、その存在が消えてしまうのです。それを知った羽磋は、輝夜姫が無事に生を全うして月に還ることができる方法を探すため、肸頓族の阿部の元へと旅立ったのでした。

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きっとん)族へ出されることとなった。大伴の息子。

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【第201話】

「王柔殿、僕は秋田の一族ではありません。その僕がどうしてこの面を持っているかは、聞かないでください。それに、この面のことは、誰にも話さないようお願いします」

 羽磋は面を手にして立ち上がると、王柔の顔を正面から捉えて真剣な表情で話しました。そして、深々と頭を下げました。

「わ、わかりました。何も聞きませんし、誰にも話しません」

 王柔は羽磋の改まった様子に気圧されはしましたが、それでも、はっきりと答えました。真剣な言葉には真剣に答える、それが、王柔なりの誠意の表し方でした。

 羽磋は王柔の言葉を受けてもう一度頭を下げると、兎の面を顔に当てました。

 兎の面は月の巫女の祭祀を司る秋田の一族が持つ面ということもあり、不思議な力を有していました。なんと、それを顔に付けて細く刻まれた両の目を通して外を見ると、通常では見ることができない精霊の力の働きが見て取れるようになるのでした。

 羽磋が面を付けた状態で周囲を見渡すと、広い洞窟の中の様子は面をつける前とは違ったように見えました。

 洞窟の奥の方から静かに流れ込んでくる水は白く発光していました。兎の面を付けて見ると、精霊の力が働いているところは白く輝いて見えるので、この水に精霊の力が働いていることが、羽磋にははっきりとわかりました。そして、その水が大量に溜まって池の様になっている箇所は、月そのものを溶かして池にしているかのように、白い光を強く発していました。おそらくは、たくさんの水が集まっているので、たくさんの精霊の力が溜め込まれているのでしょう。

 川が流れ込んでくる場所とは違ったところにも、白い輝きが集中している箇所が二つありました。それは壁際の奥まったところで、一方はとても強い輝きが集まっていましたが、もう一方は周囲の黒い岩壁よりも僅かに輝きが強い程度でした。どちらの箇所も、白く輝いて見える水面と繋がってはいるものの、黒い影のように見える地面とも接しているので、歩いて調べに行くことはできそうでした。

 面を付けない状態で洞窟の内部を見回した時には、その奥まった箇所の変化には気づけていませんでした。羽磋は、この二つの場所を後で調べに行こうと決めて、それがどこにあったかをしっかりと頭の中にしまい込むと、今度は洞窟の上部を見まわしました。こちらの方は、裸眼で見たときとあまり違いはありませんでした。水面から放たれる白い輝き、つまり精霊の力の働きを、複雑な襞を形成した砂岩の天井が反射しているのですが、穴や裂け目があることを示すような変化は認められませんでした。

 一通り自分たちの周囲を見回した羽磋は、次に水際で遊んでいる理亜の方を向きました。

「ああ、やっぱりだ」

 羽磋が考えていた通りの光景が目に入りましたでした。理亜の身体も、精霊の力を蓄えた水面に負けない程の強い輝きを放っていました。やはり、理亜の身体に起こっている不思議なことは、精霊の力の働きによるものだったのでした。

 さらに、羽磋はとても興味深いことに気が付きました。精霊の力が働いている理亜が手ですくった水は、彼女の手の中で青い輝きがとても強くなっていましたが、この面を付けて見た場合でも、池の中にある時よりも白い輝きがとても強くなっていました。

 今は兎の面をつけているので、精霊の力の働きを光の強弱として見て取る事ができているのですが、通常では、精霊の力の働きは自然現象の変化などの「働きの結果」としてしか捉えることはできません。その力そのものを見て取ることはできないのです。でも、理亜が手ですくうことで青い輝きが強くなるのは、白い輝きの変化と同じです。それは、精霊の力同士が反応しているものと考えられますし、洞窟全体の状態を見ても、青い輝きの濃淡と面を通して見える白い輝きの濃淡は同じです。これらのことを考えると、この洞窟の中で水が放っているほのかな青い輝きは、非常に珍しいことではありますが、精霊の力が目に見える形で現れているものだと思われました。

 理亜がすくった水は水面に戻された後には次第に周囲のものと同化していくのですが、その広がり方を見ていると、水面下に大きく広がる一方で、深いところには沈んではいかないようでした。また、ゆっくりとではありますが、それは洞窟の奥の方の二つの輝きの集まりのうち、輝きの強い箇所の方へと流れていくようでした。

「ふうぅう・・・・・・」

 辺りの観察を終えた羽磋は面を外すと、大きく息を吐きました。兎の面を皮袋に戻すと、彼は地面に胡坐をかいて座り込みました。

 目にぎゅっと力を込めて周囲を観察していたからでしょうか、とても目が重くて頭も痛みました。このような時は、いつもなら池の水で目を潤したり顔を洗ったりして気分を切り替えるのですが、そこに精霊の力が働いているとはっきりと知った後では、このほのかな青い輝きを放っている水を顔に付ける気にはなれませんでした。彼は目をつぶって両手で顔を覆うと、その痛みが治まるのをじっと待つことにしました。

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