コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。「ちょっと不思議」「ほっと一息」などを共有できれば嬉しいです。宜しければ、ひとときおつきあいください。

【掌編小説】 宝物にした

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 秋の始めに、近くの砂浜で行われる毎年恒例の清掃活動に参加した。

 その砂浜は古くから親しまれていて、夏の間は大勢の海水浴客でにぎわう。

 それは、地元民の一人として嬉しいことではあるけれども、困るのは放置されるゴミだ。パンやお菓子の包装袋やビールなどの空き缶、ペットボトルなど、自然に帰らないゴミは、僕たちが取り除かないといけない。清掃活動で集まるゴミは、時に1トン以上にもなる。

 砂浜に残っているゴミは見た目にも汚い。でも、もっと深刻なのは、波の力などで細かく砕かれて目には見えなくなったプラスチックごみだ。「マイクロプラスチック」と呼ばれる微小なプラスチック粒子が、海洋汚染の原因の一つとして、大きな問題となってきているのだ。

 秋に入ったとはいえ、砂浜には日差しを遮るものは何もない。流れる汗を首に巻いたタオルで拭きながら、少しでもごみを減らしたい一心で、ゴミ袋片手に砂浜を歩き回る。

 そんなとき僕の目に留まったのは、薄緑色の綺麗なガラス瓶だった。外国のビール瓶のような形だが、ラベルも何もない。口にはしっかりと栓がしてあって、中に海水が入っている様子はない。

 なんだろう。気になった僕は、清掃の手を止めて、その小ぶりな瓶を拾い上げた。何気なく日光に透かして見ると、どうやら、中には小さな紙片が入っているようだ。

 誰かが手紙でも入れて流したかな。少しロマンチックな風に吹かれた僕は、嵌めていて軍手を外して、瓶の栓を抜くことにした。

 木の葉が枝から風に乗って落ちるように。

 瓶の中から滑り出したのは、一枚の紙片だった。

「いつもお掃除いただいてありがとうございます」

 そこには、女性が書いたであろう美しい文字で、ただ一行のみが綴られていた。

 んん? どう解釈したらいいんだ?

 感謝されるためにやっているわけではないけれども、感謝されれば素直にうれしい。

 だけど、砂浜清掃への感謝を表すのなら、瓶に入れて砂浜に捨てておくのはおかしくないか? そもそも、誰が書いたんだ、これ?

 少し迷ったが、僕は紙片を戻したその小瓶を、ゴミ袋でなくズボンの後ろポケットにねじ込んだ。

 そして、今、その小瓶と紙片は、僕の部屋の本棚の上に置いてある。

 なんだかよくわからないが、僕はそれを宝物にすることにしたんだ。