コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

月の砂漠のかぐや姫 第14話

f:id:kuninn:20180421222824j:plain(これまでのあらすじ)

 月が見守るバダインジャラン砂漠。夜の力のせいか、竹姫と羽は素直にお互いの気持ちを話し合うことができます。竹姫は、自分が月の巫女であり、他の人とは違う存在とされていることに、とても寂しい思いをしているのでした。

 

※これまでの物語は、下記リンク先でまとめて読むことができます。

月の砂漠のかぐや姫 | 小説投稿サイトのアルファポリス

 

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【第14話】

「竹、あのな」

 なんとか、竹姫を励まそうと言葉を探す羽。そんな羽の言葉を、竹姫はおもいきり元気な声でさえぎりました。

「ごめんね! なにか深刻な話しちゃって。みんな人外のわたしにすごく良くしてくれているのにね。わたしね、だから、いろんなところに行って、いろんなことを経験して、いろんなことができるようになりたいんだ。そうして、みんなにお返ししたいの。そう、それだけなの」

 羽には、その竹姫の姿が必死に空元気を絞り出しているように見えて、痛々しくさえ思えました。でも羽には、竹姫を元気づけるためにかける良い言葉は思い浮かびません。ただ、思いを正直に伝えることしかできない自分に、羽は歯がゆい思いをするのでした。もっと、自分に経験があったら、知恵があったら、竹姫の不安を、哀しみを、取り除いてあげることができるかもしれないのに。

「そうだよ、竹。みんな竹のことが大好きだよ。もちろん、俺だってそうさ。俺ももうすぐ名をもらって一人前になる。そうしたら、竹をいろんなところに連れて行ってやるよ。秦でもパルティアでも、それこそ、この月が見守っている砂漠の向こう側でもな」

 今まで下を向き、あるいは空を見上げながら話をしていた竹姫は羽の心のこもった言葉に振り向き、羽の顔を見つめました。

 元気な様子を装ってみたものの、竹姫の心の奥底には、「自分は皆と違うんだ。一緒ではないんだ」という疎外感がしっかりと根付いています。でも、そんな自分と一緒に、世界を旅してくれるという人がここにいるのです。

 竹姫は、ゆっくりと、しっかりと、心を込めて返事をしました。

「うん、羽、ありがとう。きっと、連れて行ってね。約束だよ」

「ああ、約束だ」

 そして、羽は、あることを思いつきました。竹姫がこれ以上寂しく思わないように。約束をした確かな証になるように。

「そうだ、竹。約束の証に、俺が竹に名を贈るよ」

「え、羽がわたしに名前をくれるの」

 もちろん、本来の「名」ではありません。月の民における「名」とは、成人した証として、親や一族の長老が、その者に対する希望や願いを込めて選んだものが送られるのです。つまり、親や長老が一人前と認めないと贈られるものではありません。あまり文章を綴る習慣がない月の民は、その贈られた名の意味を心に留め、そして字の形を真剣に覚えて、自分の証として持ち物に刻みつけているのでした。

 綽名として、周りの者から一文字の「呼び名」が付けられることはあっても、通常、正式な名として考えられる二文字の「名」が、友人からつけられることは無いのです。

「ああ、そりゃ正式にではないけどな。約束の証として俺が竹に贈るよ。そうだな‥‥‥」

 優しい心根から生じたものとは言え、急な思い付きです。羽は、自分の頭の全てを使って竹姫にふさわしい名を考えました。どんな名が竹にふさわしいだろうか。優しい竹、元気な竹、これからも一緒にいたい竹‥‥‥。そして、ふと、夜空を見上げた羽はひらめきました。ああ、竹の名はこれを置いて他はない、と。

「そう、そうだ。俺が竹に送る名は「輝夜」(かぐや)だ。輝く夜という文字で「輝夜」。竹のことを月の巫女っていう人は多いけど、月だけじゃ竹の魅力は収まらないよ。この夜空の星々がいろいろな色や輝きを持っているように、竹にもいろんな良いところがたくさんたくさんあるんだぜ。そして、もう一つ。月の巫女に縛られる必要なんてないんだ。この星が輝く夜空の下、竹はどこにだって行けるさ、もちろん俺も一緒にな」

 一気に思いを吐き出して、羽は竹姫に向かって座り直しました。

「そんな思いを込めて、竹に「輝夜」の名を贈ります。といっても正式な名ではないから、二人だけの秘密の名ということになるけどな」

「か・ぐ・や‥‥‥。かぐや、輝く夜という文字で「輝夜」。「輝夜」なのね、わたし」

 ゆっくりと、「輝夜」の名を自分に落とし込む竹姫、いや、ここでは輝夜姫と呼ぶべきでしょうか、輝夜姫は羽の顔を正面から見つめると、微笑みながら答えました。輝夜姫には、羽がその名前に込めてくれた想いが充分に伝わっていました。そのせいか、「輝夜」とつぶやいてみると、自分が囚われている何かから、自由になったような気までするのでした。

「ああ、嬉しい‥‥‥。ありがとう、羽、ありがとう。絶対忘れない。もらった「輝夜」の名は、絶対忘れないね」

 それは、先ほどまでの、心細げな声ではなく、とてもとても幸せそうな声でした。

 自分の送った名に喜ぶ輝夜姫の表情を見た羽も、とても暖かな気持ちになりました。

 そして輝夜姫にやさしく語り掛けました。

「ああ、二人だけの秘密だな」

「うん、二人だけの秘密だね」

 自分たちだけの秘密を持つ、これ以上に少年少女に一体感を抱かせ、仲間意識を感じさせるものがあるでしょうか。もともと、羽は輝夜姫にとって最も心の許せる人ではありました。でも、羽が竹姫に「輝夜」という名を贈り二人だけの秘密としたこの事によって、輝夜姫にとって、羽という存在が自分と周りの人とを隔てる幕の外ではなく内にあることが、はっきりと感じられるようになったのでした。

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