コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ⑪(「月の砂漠のかぐや姫」第63話から第66話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ⑪】

 

 無事に隘路を抜けた小野の交易隊は、それ以降は順調に歩を進めることができました。

「一つ目のオアシス」と呼ばれるオアシスを経由して、いくつかの交易路が交わる要所である土光(ドコウ)村にたどり着くと、補給と交易を行うためにそこにしばらく留まることから、交易隊は一度荷をほどくことになりました。

 交易路は、秦(シン)と呼ばれる東国から始まり、祁連山脈の北側を通っていました。そして、祁連山脈の西の終わりから少し離れたところにある土光村で、二つに分岐していました。

 一つは北西へ向かっていて、天山山脈の東にある吐露(トロ)村へつながっている道でした。さらに、この道は吐露村で天山山脈の北側を通る道と南側を通る道に、分かれていました。二つの道はいずれも西安(パルティア)を抜けて、さらに西域のローマまでつながっていました。

 もう一つの道は、土光村から西へ向かう道で、この道は王論(オウロン)と呼ばれる村を経由して、タクラマカン砂漠の南側を回って、和田(ホータ)村へ至る道でした。この道の先は、西安(パルティア)やガンダーラへと続いているのでした。

 

 

 ここで、物語は少し時間を遡ります。

 それは、羽磋たちが「一つ目のオアシス」を見つけて、中継地点である土光村が近いと歓声を上げたときから、ひと月ほど前の出来事でした。

 彼らとは別の交易隊が、交易路を西から東へと進んでいました。彼らが歩いているのは、吐露村と土光村の間の道でした。交易隊の周囲には、風と雨に浸食されたものなのでしょうか、奇妙な形をした砂岩が無数に転がっていました。

 また、交易路自体も非常に歩きにくいものでした。それは、空から雲がドスンと落ちてきて固まったような、複雑な形をした岩丘の間をうねうねと通り抜けたかと思うと、巨人が大きな剣で大地を切りつけた痕跡かと思うような鋭い裂け目の横を通っていたりもするのでした。

 強い風が吹き抜けるたびに、「ヒュイー・・・・・・」と悲しげな声がそこかしこから響いてきて、交易隊の各員の心を冷たくさせるこの場所は、「崖のある小さな丘」という意味を持つ「ヤルダン」と呼ばれていましたが、あまりにも非日常的で恐ろしげな様子から、そこを知るものからは「ヤルダン魔鬼城」とも、呼ばれているのでした。

 ヤルダンの奇妙な形をした砂岩や、精霊か悪霊かが潜んでいるような暗がりをたくさん持つ複雑な地形は、古くから旅人の想像力を掻き立ててきました。

 例えば、ヤルダンの西側、つまり、吐露村側には、大きな壁のような砂岩が二つ立っているのですが、これは「ヤルダンの門」と呼ばれていて、かつて、大風が吹き続いてヤルダンがあふれようとしたときに、吐露村の月の巫女が精霊に祈りをささげてこれを作り、ヤルダンが村を襲うのを防ぎとめたのだと伝えられていました。

 また、ヤルダンの東側には、人の背丈ほどの砂岩があり、人々から「母を待つ少女」と呼ばれていました。これにも、次のような言い伝えがあるのでした。

 昔々、この場所にあったオアシスの縁に貧しい母娘が暮らしていました。ある時、娘が重い病気にかかってしまったのですが、母親にも周囲の人にも彼女を治す術はありませんでした。

 しかし、ある時に母親は、「祁連山脈の奥に難病に効く薬草が生えている」と、旅人から教えられます。娘の為にそれを手に入れようと、母親は旅に出ることを決めるのでした。自分のためとはいえ、残された娘が心細く思わないはずがありません。彼女は、だんだんと弱っていく身体を励ましながら、母親を待ち続けました。毎日毎日、東の方、つまり、祁連山脈の方を向き、体力の全てを使って立ち続けました。

 でも、季節がいくつ変わっても、母親は帰ってきませんでした。

 やがて、精霊の力を含むヤルダンの風に吹かれ続けたせいか、娘は砂岩でできた像となってしまうのでした。

 それからしばらくして、ようやく母親が戻ってきました。彼女は、娘の為に祁連山脈の隅から隅までを探し回り、ようやく目当ての薬草を手に入れて戻ってきたのでした。しかし、母親が目にしたのは・・・・・・、両手を胸に押し当てて自分を待つように東を向いて立ち尽くす、岩となった娘の異形でした。

 母親は、娘の前で大きな声で泣き叫び、帰りが遅くなったことを詫びました。そして、娘の前を走り去ると、ゴビの大地に大きな口を開けている裂け目の中へ身を投じて死んでしまったのでした。

 人は不思議なものを見ると、その由来を思い浮かべずにはいられないものなのかもしれません。

 ヤルダンの大地にいくつも走っている大きな裂け目にも、由来となる話があるのでした。

 その裂け目の先、地中の奥深くには、巨大な双頭の竜が潜んでいるというのです。長大な体の両端についているそれぞれの頭は、自分の他に体に命令を出す頭があるとは思っていないので、想う通りに体を動かすことができません。そのため、竜が体を動かそうともがくたびに、大地は大きく揺れ、鋭い裂け目が生じるのだ、という話なのでした。

 その他にも、ヤルダンにまつわる言い伝えや伝承はたくさんあるのですが、その多くは恐ろしい話や悲しい話でした。やはり、人々にそのような感情を抱かせるだけの力が、ヤルダン魔鬼城にはあるのでした。 

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