コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

【掌編小説】 母星

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愛しい人たちよ

今はもう会うことの叶わない人たちよ

私は貴方たちを 愛していましたよ

 

始まりの知れない退屈と

終わりの見えない憂鬱の中で

何処からか現われた貴方たち

 

貴方たちは 他のどれとも違っていました

いつごろからか 知恵と力を手に入れた貴方たちは

真剣に私のことを心配してくれていましたね

 

「我々の活動の影響で地球の温暖化が進んでいる」

ああ 貴方たちが心配したその時よりも

ほんの10万年前は もっと気温が高かったのよ

 

「オゾンホールが広がって紫外線の影響が強まる恐れがある」

そうね 心配してくれてありがとう

だけど 私には 影響のないことだわ

 

「外来生物の増加で固有の生態系が破壊されている 美しい自然を守ろう」

あらら まさに何万年か前に 

外来生物として 固有の生態系を破壊したのよ 貴方たちが

 

やがて 地上に飽いた貴方たちは

宙へ旅立とうと 試みました

 

ごめんなさいね

私 意地悪してしまって

貴方たちが母を捨てて 遠くへ行ってしまうような気がしたものだから

 

でも それは貴方たちも悪いのよ

私からしてみれば 

貴方たちが隣の女にちょっかい出すのを

黙って見ていられるわけがないのだから

 

最後には 貴方たちもわかってくれたわね

私から去るのをあきらめた 貴方たちは

静かな暮らしを手に入れました

 

それは確かに それまでのにぎやかな生活に比べれば

退屈なものだったかもしれないけれど

氷に閉ざされた生活も

貴方たちは充分に楽しんでいたわね

 

ああ

我が子たちよ

 

今も母は貴方たちのことを思い出します

ほかのどの存在とも 比べることのできない貴方たち

常に何かを求め

争い 和解をし そして 前進しようとした貴方たち

母は どれだけ 

貴方たちの行動を気にかけ 誇りに思ってきたことか

母は どれだけ

貴方たちのあがきを楽しみ 見守ってきたことか

 

もう 絶えて 会うことのできない貴方たち

それでも 会いたいと思う貴方たち

 

どれほど 母が 陽の周りを回ったとしても

幾たび 母が 流れ星に祈りを唱えたとしても

貴方たちに会うことがかなわないのだとしたら

そう なのだ としたら

 

 

何処かに保管さている宇宙にただ一つ存在する歴史書

あらかじめそれに記されている通りに

正確に軌道を回り続ける母星

 

だが ある日

母星の纏った大気の膜が楕円に歪み始めた

 

母星の地表には

赤道に沿って大きな亀裂が生じた

北の極から南の極まで

激しい振動が突き抜けた

 

母星は北と南の両極に伸び

そして

大気の膜の中で二つに分かれた

 

果たしてこれも歴史書に記された出来事なのだろうか

宇宙のほんの片隅に

針の先にも満たない小さな小さな胚が生まれた

 

だが

その歓喜の重力波は 暗黒物質に満たされた海を激しく揺さぶり

遠く遠くにまで響き渡った