コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ⑥(「月の砂漠のかぐや姫」第48話から第51話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ⑥】

(第二幕)

 いくつもの高山が、まるで天を支えるかのように連なってそびえる祁連山脈。その北側にはゴビの荒れ地とバダインジャラン砂漠が大きく広がっているのですが、祁連山脈近くには、雪解け水の恩恵を受けた緑地やオアシスが、ゴビの荒れ地の中に点在していました。

 天上にかかる太陽に焼かれながらも、点在する緑地を縫うようにして進む、一団の交易隊がありました。太陽の目から見ると、赤茶けたゴビの荒れ地の上に落ちた白い羊の毛のようなそれは、小野の交易隊でした。

 少しづつではあるものの着実に前進を続ける交易隊。やがて、交易路を西へと進む彼らの前に、岩山が現れました。岩山を迂回するとなると大変な手間がかかりそうですが、岩山の祁連山脈側には細い川があり、目に見える岩山の狭間を抜けた後では、岩山と川との間を交易隊が通り抜けることはできそうでした。

 いよいよ岩山の近くまで交易隊が来ると、隊の先頭から、二人の少年が馬を飛ばして抜け出しました。

 一人は白い頭布を巻いた月の民の少年。いえ、もう成人しているので、青年というべきでしょうか。小野の交易隊に合流していた羽磋でした。

 羽磋よりも年少に見えるもう一人の少年は、頭布をつけていませんでした。こちらは、この交易隊の護衛をしている匈奴(キョウド)という異民族で、皆からは苑(エン)と呼ばれている少年でした。

 彼らは、交易隊の進路に現れた隘路に危険がないかどうかを調べるために、隊から先行したのでした。

 馬を走らせて交易隊本体から距離を取ると、苑は指笛を甲高く響かせました。すると、空の上から鋭い声で「ヒーヨー」と答えが返ってきました。ゴビの乾いた地面に小さな影を落として近づいてくるそれは、オオノスリという大きな鳥で、苑が「空風」(ソラカゼ)という名をつけて自分の相棒としているものでした。

 苑は指笛により次々と空風に指示を送りました。

 交易には様々な困難や危険があるのですが、このような隘路には彼らが運ぶ荷や食料を目当てとした盗賊が潜んでいるおそれがあるため、空風に指示を送って調べようとしているのでした。

 苑の指示に従って、隘路の上を何度も横切る空風。やがて、空風はある場所の上で、ゆっくりと旋回を始めました。

「あ、反応がありましたよ、羽磋殿」

 苑が隣にいる羽磋に誇らしげに話しかけました。

 空風が苑に送った合図は「この下に人がいる」というものだったのです。どうやら、隘路の外側からは見えない場所に、何者かが隠れているようでした。

 息を潜めて隠れている者も、自分たちの上で旋回するオオノスリを見て、潜伏がばれたのを察したのでしょうか。狭間の中から数本の矢が上空を旋回する空風に向かって放たれました。

 真上に向けて放たれたその矢には力がなく、目的を達することなくすぐに地面に落ちていきましたが、自分の相棒を攻撃された苑を怒らすだけの力は持っていました。

「くそ、あいつら、空風に向かって弓を引きやがった。羽磋殿、あいつら馬鹿っす。きっと乗ってきますから、引っ張り出しましょう。遅れないでついてきてください」

 指笛で空風に指示を送ると、苑は羽磋に提案をしました。そして、自分の弓矢の用意を整えると、馬を駈けさせたのでした。驚くことに、何者かが隠れているだろう、狭間の中に向かって。

 引っ張り出すというから、狭間の中に隠れている何者かを狭間の外に引っ張り出すと思っていたのに、苑はその中へ突入していったのです。

「ええっ、小苑。そっちには誰かが・・・・・・。ええい、くそ。それっ」

 あっけにとられた羽磋でしたが、苑は「遅れないでついてきてくれ」と言ったのです。羽磋は背にしていた弓を左手に持つと、急いで苑の後を追い始めました。

 

 

 周囲に何もないところから、急に両側を高い岩壁に挟まれた狭間の中に飛び込んだせいか、頭の上にいくつもの岩がのっかっているような強い圧迫感が羽磋と苑を襲いました。

「ハイハイッ。イィヤッホウッ!」

 それでも、苑は少しも速度を落とさず、馬を走らせます。

「ヤッホウじゃないよ、まったく」

 そんな苑にあきれながらも、羽磋は彼の右後ろを追走しました。

 ドウ、ドウッ。ドウ、ドウッ。

「おらおらっ。どうした、どうした! 出てこないのかい? 飛ぶ鳥一羽も落とせない下手くそどもは、やっぱり臆病だなっ!」

 空風に向かって矢が射かけられた場所に差し掛かると、苑は遊牧民族の男どもがもっとも誇りを持っている弓の腕前について、罵り言葉を大声で叫びながら走り抜けました。

 そうすると、どこに隠れていたのか、苑に対して怒号を上げながら、幾人もの野盗たちが、岩ひだの中から現れたではありませんか。

「まだ、いるはずっすね」

 苑と羽磋は、馬の速度をさらに上げて、足場の悪い中を必死に駆け抜けました。

 隘路の先は緩やかに左に曲がっていて、その先の右側は空の大部分が見えなくなるような高い岩壁が、複雑なひだを作っていました。左側には、狭い川床をうねるように浅い川が流れていて、こちらからそう遠くもない向こう岸には、祁連山脈から連なる丘陵が肌を見せていました。

 その丘陵側から、馬に乗った野盗が何人か、こちらに向かってきました。おそらくは、岩壁に隠れていた仲間たちと、隘路に入ってきた交易隊を挟み撃ちにする手はずだったのでしょう。でも、あまりにも苑と羽磋が素早く通り過ぎたために、馬に乗った野盗が浅い川を渡って交易路にたどり着いたときには、二人はその場所を通り過ぎていました。野盗の襲撃計画は、すっかりダメになってしまったのでした。

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