コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ⑦(「月の砂漠のかぐや姫」第52話から第54話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ⑦】

 隘路の曲がり角をしばらく行くと、道幅が少し広くなっているところにでました。そこで、苑と羽磋は馬の速度を落とし、振り向いて後ろの様子を確認しました。

「おめえら、よくも俺たちをコケにしてくれたなっ! んん? おぉ、よく見ると、二人ともまだ餓鬼じゃねぇか。こりゃぁ、俺たちが礼儀ってやつを、よく教えてやらないとなぁっ!」

 二人の後ろからは、岩壁から飛び出した野盗や、丘陵から川を渡ってきた馬に乗った野盗などが、襲撃計画をダメにされた怒りで身体を火照らせながら、一団となって追ってきていたのでした。

「あ、あれ、これって大丈夫なのか」

 羽磋は急に不安になりました。確かに苑の言った通り隠れていた野盗を引き出すことには成功し、彼らの挟み撃ちの計画もうまくかわすことができました。でも、見方を変えてみると、自分たちは二人だけで、交易隊の本体とは切り離されているのです。このまま、野盗たちに襲われでもしたら・・・・・・。

 ところが、羽磋の心配を知ってか知らずか、彼の隣にいる苑は、大声を上げてさらに野盗たちを罵るのでした。

 野盗たちはすっかり頭に血が上ってしまいました。もともと戦うために訓練された男たちでもありませんから、それぞれが自分の手で苑に一撃を加えたいと意気込むのでした。とうとう、馬に乗った野盗の一人が自分の弓を構えて、最初の一矢を放とうとしたその時・・・・・・。

 ヒョウッ・・・・・・。ズブン。ドゥツ!

 目にもとまらぬ早業とはこのことでしょうか、苑は素早く弓を構えるやいなや、一本の矢を放ちました。それはものの見事に弓を構えた野盗に命中し、馬上から地面に叩き落としたのでした。

 まったく予想していなかった出来事に、その場の空気は凍りつきました。しかし、その空気はすぐに、野盗たちから沸き上がった激しい怒りによって溶けて、さらには、沸騰までするのでした。

「や、やりやがったなあっ」

「こ、こんはろ、いや、こにゃんろうっっ!」

 間近の危険を排除した苑の矢は、明らかにより大きな危険を生み出してしまったのでした。盗賊たちはみな苑と羽磋への怒りで我を忘れんばかりで、その中には興奮のあまり舌が回らない者までもがいるほどでした。

「なんで、こんなことに・・・・・・。輝夜を救うために、阿部殿に会わなければいけないのに・・・・・・」

 そのような状況でも、なおも苑は野盗たちをあおり続けるのでした。羽磋は、そのような状況を恨めしく思いました。でも、この場に苑を置いて逃げ出そうという考えだけは、彼の中には浮かんでこなかったのでした。

 とはいえ、この場を切り抜けるためのいい考えが、羽磋にあるわけでもないのでした。

 見せつけられたばかりの苑の弓の腕前を警戒しながらも、野盗たちはじりじりとこちらとの距離を詰めてきていて、今にも襲い掛かってきそうです。

「くそ、こうなったら、できるだけのことはするさ」

 彼が腹の中で覚悟を決め、自分の弓を引こうとしたその時・・・・・・。

 野盗たちの背中側、狭間の入り口の方から、重い地響きが聞こえてきました。

「来たぁ、来たっすよ。羽磋殿!」

 羽磋の横で弓を構えていた苑が、心からの喜びに彩られた声を上げました。

 ドドッ、ドドッ、ドドウッ!

 それは、交易隊本体と一緒に残っていた護衛隊の長である冒頓(ボクトツ)と、その部下の数人が、隘路に吹き込む強風のように馬を走らせて突入してきた音でした。

 前触れもなく自分たちの後ろから突入してきた冒頓たちに、野盗は全く抵抗できませんでした。一団となった冒頓たちは、鋭い斧で椰子の実を割るように野盗の群れを真ん中から断ち割り、突き抜け、そして、転換して再度突入し・・・・・・。

 すべてが終わるまでに、さして長い時間はかかりませんでした。

「よおう、おつかれさんだったな」

 息を荒げている愛馬の首を叩きながら、冒頓が羽磋と苑に声をかけたときには、幸運にも逃げ出すことに成功した数人のものを除いて、野盗のほとんどは地面に打ち倒されておりました。

 羽磋は、自分の目の前で起こった出来事が、まるで信じられませんでした。

 先頭に立って突入してきた冒頓に、つき従ってきた彼の部下を加えても、わずかに五人しかいないのです。その五人で、数十人はいたはずの野盗の群れを壊滅させたのです。

「ありがとうっす、冒頓殿。冒頓殿なら、空風を向かわせたら反応してくれると思ったんす・・・・・・」

 自分のあこがれの存在である冒頓の前で、苑は緊張しながら報告をしました。

「そりゃ、空風をよこした狙いはわかるけどよ。いいか、小苑。自分を賭けの対象にして、大きな成果を狙うのはやめとけよ。死んだら終わりだからな」

 冒頓に褒められることを期待していた苑は、反り返っていた身体を急に小さくしてしまいました。

「頼むぜ、小苑。だが・・・・・・、まぁ、よくやったぜ」

「は、はい、ありがとうっす!」

 冒頓の厳しい言葉は、苑のためを思って言わずにはいられなかったものなのでしょう。厳しい表情を作ろうとしていても、冒頓の顔には弟分としてかわいがっている苑の活躍を喜ぶ気持ちが、自然と表れていたのでした。

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