コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。また、短編小説集をBOOTHで発売しております。https://syuuhuudou.booth.pm/

【掌編小説】冥界ラジオ

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 ・・・・・・ーー廾・・・・・・ーサ・・・・・・。

 サ廾・・・・・・サ・・・・・・廾廾・・・・・・ザ・・・・・・。

 メ・・・・・・ザー・・・・・・・ピ丗丗丗十・・・・・・・メイ・・・・・・。

 ザザー・・・・・・・。

 

 

【赤鬼】

 はい、今日も始まりました! 冥界レイディオッ! 死者を案内する死神さんも、亡者をいたぶる獄卒さんも、少しの間お耳を拝借。のんべんだらりとしたワタシのおしゃべりで、一息ついてくださいませ。もちろん、偶然この番組に周波数があってしまったというそこのお人も大歓迎ですぞよ。

 さて、今日も新しいゲストがいらしてくれてます。ご紹介いたしましょう。先日、掌編小説「鬼ごっこ」を発表され、全冥界の五千万鬼たちを感動の渦に巻き込んだ話題のお人、苦人さんです!

【苦人】

 え、えっとぉ。何ですかこれ。ラジオですか。スタジオですか。夢ですか。えっ?

【赤鬼】

 やだなぁ、苦人さん。ゲストですよ。冥界ラジオのゲ、ス、ト。短い時間ですが、楽しんでいってくださいな。

 ところで、先ほどご紹介させていただいたように、苦人さんと言えば掌編小説「鬼ごっこ」の作者ですが、あの作品はどの様な着想で書かれたのですか?

【苦人】

(テレビで見たことがあるラジオスタジオのような部屋で、昔話に出てくるような赤鬼と差し向かいでヘッドホンを付けてマイクに向かっているなんて・・・・・・。夢か、な。うん、夢だ。新しい小説のネタを考えすぎて頭が疲れちゃったんだ、きっと。あ、いや、この夢こそが小説のネタになるかもだ。この夢、しっかりと覚えておこう!)

 あ、あれですね。「鬼ごっこ」は、子供の遊びの中にまで落とし込まれた、人間が生来持っている残酷さを、普通とは視点を変えて描いてみました。差別や偏見はいけないことだと言いつつも、みんなは「鬼」は「恐ろしいもの」で「逃げないといけないもの」と子供に刷り込む。「鬼」は「人」ではないからいいんだ、と整理する人もいますが違うんですね。鬼ごっこという遊びを裏返すと、自分の側に立っていない人は「鬼」だ、もはや自分と同類ではないんだ、ということになってしまうんです。意見が違うけれども理解しあおうというのではなく、「逃げる」という「拒絶」しか選択肢がない。だから、僕は・・・・・。

【赤鬼】

 なあるほどー! 柔らかな語長と優しい世界の中に秘められた深いテーマ。だからこそ、鬼たちの心を震わせることができたんですね。流石でございますっ。

【苦人】

 え、あ、はい。ありがとうございます・・・・・・。(なんだよ、僕の話はブツ切りかよぉ)

【赤鬼】

 さぁ、では、サクサクッと番組を進めていきましょうっ。チョー短い番組なのでねっ。いつものように番組にお便りが来ております。まず、ゲストの苦人さんにご紹介いただきましょう。

【苦人】

 これを読めばいいんですね。えー、ラジオネーム、寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の・・・・・・。

【赤鬼】

 はいっ。ありがとうございましたっ。えー、それでは、次の・・・・・・。

【苦人】

 あれ、もう良いんですか。このお便りは?

【赤鬼】

 今お便りがちらっと見えましたけど、ラジオネームが寿限無全文なんでしょう、それ。

 無理無理無理でーす。読めるわけがないじゃないですか。いやがらせですよ、それ。番組とパーソナリティーに対する敬意が全く無い。だから、こっちも敬意を払いませーん。そもそも、冥界ラジオに送ってくるラジオネームじゃないですよね、おめでた過ぎて。もう、テロですよ、テロ。

 苦人さん、次のお便りに行ってくださいっ。

【苦人】

 はあ・・・・・・。では、こちらのお便りです。ラジオネームは、鬼に金棒耳に綿棒さん。「最近、僕が管理している血の池地獄が大変なことになっています。血が増えすぎて池が決壊しそうになっているのです。赤鬼さん、何とかしてください」とのことです。

 血の池地獄! ホントにあったんだ。でも、何やら困ってるみたいですよ。赤鬼さん。

【赤鬼】

 いやぁ、これねぇ。最近、こんなお便りが多いんですよ。以前に比べて地獄に落ちてくる人が増えたせいで仕事が忙しくてたまらないとか、設備が追いつかないとかね。

 はっきり言いましょう! 我々ではどうしようもありません!

【苦人】

 え、そんなに、はっきり言っていいんですかっ。

【赤鬼】

 だってそうでしょう、苦人さん。人間界全体が地獄に近づいてきているんですよ。そこで流される血の量が増える一方だから、地獄の血の池が溢れ出してしまう。人口が増えた結果で死者が増えるとしても、それが天に上がってくれればいいんですよ。だけど、続々とこちらに回ってくる。まったく、少しは鬼の迷惑も考えてほしいですよ。

 我々もいろいろ努力しているんですよ。「地獄は怖いぞー、来るなよー」って、人間に対しての広報も強化しています。でもねぇ・・・・・・。苦人さん、地獄絵図って知ってます?

【苦人】

 地獄絵図? とても悲惨な状況を表す言葉、ですか?

【赤鬼】

 ああ、やっぱり見たことがない! 地獄の様子を描いた絵ですよ、絵! 地獄に落ちた亡者どもが獄卒に悲惨な目にあわされているところを描いているんです。人間がその絵を見て、「ああ、地獄はなんて恐ろしいところだ。悪いことをして地獄に落ちることのないようにしよう」と、心を正してもらうためのものです。特に字の読めない子供たちを躾けるためには、最良のアイテムなんですよ。

【苦人】

 うーん、見たことないですねぇ。それに、そんなに残酷な絵だったら、子供に見せるなんてとんでもないって言われると思いますけどねぇ。

【赤鬼】

 だからですっ。だからこの状況なんですよっ。しっかりしてください、人間! 我々も若者に訴えようと悪魔界からバンドを送り込んだり、火山地に小規模な地獄巡りを現わしてみたりと広報に努めてはいますが、まずは人間自身が変わってくれないと!

【苦人】

 いや、人間も良い方向に変わろうと努力をしていますよ! 教育もそうですし、ジェンダーフリーの機運を高めるとか持続可能な開発(SDGs)の研究とか、それに、地球温暖化対策の促進とか。

【赤鬼】

 人間のやることですからねぇ。ちゃんと的を射た施策ができているのかどうか。例えば、苦人さん、その温暖化対策ってどの様なものですか?

【苦人】

 もちろん、一番大きな活動は二酸化炭素排出量の削減です。各産業や個人がその意識を高めているんですよ。自動車産業なんかでも、数年後には新車はすべて電気自動車になると言われていますし。

【赤鬼】

 やっぱりねぇ・・・・・・。人間ってそうなんですよ。近くのモノにしか目がいかない。二酸化炭素排出量の増加が温暖化につながっているとして、一体どうして排出量が増えてきたと思っているんですか?

【苦人】

 それは、科学技術の発展に伴って、化石燃料の使用量が増えたからじゃないんですか。

【赤鬼】

 違います。さっきも言ったでしょう。地獄に落ちる亡者が増えているんです、とっても! 世界最大の炎はなんだと思っているんですか。火山? 発電所? 違いますよ! ちゃんと地獄絵図を見てればわかりますよね、そこかしこで炎が上がっているのが・・・・・・って、見てないんだよなぁ!
 そう、亡者どもを焼き尽くす地獄の炎! 火の山地獄! これですよ? わかりますよね?

 さっきも言いましたけど、ここのところ地獄に落ちる亡者がとても増えているんです。だから、地獄の業火は24時間365日、最大火力で燃え盛っています。地下で轟々と炎が上がっているのですから、地上が温暖になるのは当たり前。さらに言えば、二酸化炭素濃度が上がるのも当たり前でしょうに。

 それを、まぁなんですか、化石燃料の使用量の増加ですって? 何を言ってるんですかねぇ、人間は・・・・・・。

【苦人】

 ま、まさか。温暖化の原因って、それだったんですか・・・・・・。

【赤鬼】

 苦人さんには、わかってもらえたようですね。だから、温暖化解消には、地獄に落ちる亡者の数を減らすのが一番の近道なんですよ。

 さて、この話題、盛り上がりましたね! 提供してくださったラジオネーム鬼に金棒耳に綿棒さんには、死後地獄に落ちた桃太郎から剝ぎ取った吉備団子一袋をお送りします!

 では、最後のお便りをわたしが読ませていただきます。ラジオネーム泣いてばかりいる子鬼さん。ありがとうございます。

「僕は亡者を刺す鉄串を作る仕事をしているのですが、最近注文が増えすぎて残業が続き、もうヘロヘロです。親方の機嫌も悪くなる一方です。助けてください」ということです。これも地獄に落ちる亡者が増えているせいでしょうねぇ。

 では、苦人さん、泣いてばかりいる子鬼さんにアドバイスをお願いいたします。

【苦人】

 え、僕ですかっ。えーとえーと。(なんとか励まさないとっ)

 だ、大丈夫です。明けない夜はないと言いますよ、泣いてばかりいる子鬼さん。貴方ならきっとやれます。頑張ってください! 応援していますよ!

【赤鬼】

 おおーっ。ありがとうございますっ。流石です、苦人さん。

【苦人】

 ありがとうございます。励ますことができたのなら良かったです。

【赤鬼】

 励ます? いえいえ、何をおっしゃっているのやら。見事な拒絶。素晴らしい鬼っぷりでしたよ。流石に我々と波長がぴったりと合う人間だけのことがあります。よっ、この人でなし! 鬼っぷりが切れてるよっ!

【苦人】

 なんでそうなるんですか、拒絶なんてしてませんよ、僕は。大丈夫だ、貴方ならできるって、励ましていたじゃないですか。

【赤鬼】

 またまたまたぁ! 相手の心に寄り添って励ましたいのであれば、傾聴と同意が基本じゃないですか。子鬼さんは「助けて」というほどの状況に置かれているのですよ。まずは「それは大変ですね」と同意をしてあげるのが、相手に寄り添う一言であったはずです。

 苦人さんがまずおっしゃったのは、「大丈夫」というお言葉。これは子鬼さんが「助けて」と感じていることへの否定の言葉ですよね。さらに、「貴方ならやれます」と「応援しています」というのは、「自分で解決してください」と「応援以上の具体的な助けはできません」という拒絶ですよね。

 お見事! 子鬼さんはどれだけ絶望したでしょうね。いやぁ、勉強になりましたっ。

【苦人】

 そ、そんな、そんなつもりじゃ・・・・・・。

【赤鬼】

 では、泣いてばかりいる子鬼さんには、「貴方ならやれる」と書いたステッカーをお送りします。やれなかった場合は、貴方が悪いということですからね、子鬼さんっ!

 おっと、そろそろ、お時間となりました。苦人さん、番組へのゲストでのご参加、どうでしたか?

【苦人】

 もう終わりですか? この夢、いつ覚めるのかな?

【赤鬼】

 夢ですって? いいえ、夢なんかじゃありませんよ。ああ、大丈夫、亡くなった訳でもありません。最初に申し上げたじゃないですか。ゲストですって。我々の世界と特に波長が合う人間を、番組の特別ゲストとして招いているんです。

 ところで、苦人さんの見事な鬼っぷり、感服いたしました。もし宜しければ、このまま獄卒として地獄に残ることもできますよ。もちろん、人間界にお帰りいただくこともできますが、亡くなった後にこちらに来る場合には、亡者側になりますのでご了承くださいね。苦人さんの素晴らしいお人柄から考えると、天に上がられるとは考え難いですしねぇ・・・・・・。いかかでしょうか?

【苦人】

 え、そんな・・・・・・。でも、今なら・・・・・・。いや・・・・・・。う・・・・・・。

【赤鬼】

 あらら、もう時間がありません。苦人さん、お返事は番組終了後にお聞かせください。今日も人間のゲストで盛り上がりましたねぇ。来週のゲストも、偶然にこの番組に周波数があった人間の方、そうです、そこの人間の貴方に、お願いしちゃおうかなっ。

 ではでは、来週のこの時間まで、さよならっ。

 冥界、レイディオー!

 

 

 メ・・・・・・ザー・・・・・・・ピ丗丗丗十・・・・・・・メイ・・・・・・。

 ・・・・・・ーー廾・・・・・・ーサ・・・・・・。

 サ廾・・・・・・サ・・・・・・廾廾・・・・・・ザ・・・・・・。

 ザザー・・・・・・・。サァ・・・・・・。

 

 

 プツン。

                                 (了)