夜空の青暗さを表す言葉がどれだけあったとしても、一夜の空が見せる色彩の豊かさを表現し尽くすことなどできない。
見る者に母なる海を思い出させるその深みの一端でもキミと共有することができたなら、ボクはそれを自分の成し遂げた一大事として記憶し続けるだろう。
それとは対照的なのが、漆黒で塗りつぶされた丘だ。
陽の光を浴びて輝いていた木々の緑葉も、長い時をかけて微生物が有機物を分解して生み出した褐色の腐葉土も、かつては壮大な建築物の一部であった白いコンクリート片も、今ではそれぞれが個別の存在であると主張することなく、等しく闇に沈んでいる。
丘の上から一本の黒い棒が天に向かって伸びているのが見えるかい。
あれは、軌道エレベーターの遺物。
フラーレンの黒棒。
規則正しく並んだ炭素原子の数々が、ボクたちが空へ上がるのを導いてくれていたよね。
正極には正極。負極には負極。
反発の力がエレベーターを押し上げ、あるいは、受け止めてくれていた。
ねぇ、キミ。
いつからボクたちは、この地上でも正には正を負には負をぶつけるようになってしまったんだろう。
正に正をぶつけたって、反発しか起こらない。
負に負をぶつけたって、お互いを助けられない。
それにさ、キミ。
どうしてボクたちは、正も負も絶対的なものでなくて相対的なものであることを忘れてしまったんだろう。
あの黒棒が倒れた時、キミは音がすると思うかい。
キミは「それはエゴだよ」と言って笑うかもしれないけれど、それでもボクは思うんだ。
誰も聞く者がいなければ、そこに音は無いんだって。
そしてね、キミ。
ボクはキミに、いや、キミたちに、その音を聞いてほしいんだ。