コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

【掌編小説】 最優秀死神の秘訣

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 いつもと同じ夜のはずなのに、何かが違う。

 何気なく彼が振り向いた先には、奴がいた。死神。

 黒いローブで全身を包み、大きな鎌を抱えている骸骨。それなのにうっすらと向こうが透けて見える。大きな鎌を抱えたその姿がワンルームの彼の部屋に入れるはずもないのだが、違和感なく存在しているのは、次元の違いゆえか。

 その存在感は圧倒的で、彼は自分の目を疑うこともできなかった。ただ一つ生じた感情は「恐怖」。

「し、死神・・・。待ってくれ、俺はまだ死にたくない、まだやりたいこともたくさんあるし、そう、頑張るから、いや、もっと人にも優しくなるし、な、待ってくれ。頼む、頼む!」

 彼の口から出たのは、命乞いだった。自分の命が無くなる、その事実に初めて直面した彼の正直な感情。

 だが、彼の言葉は死神の姿を通り抜けた。

 死神は何の反応も見せずに、ゆっくりと大鎌を振り上げた。

 彼の部屋は、もうどこまでも大きく広がっている。世界に存在するのは、彼と死神だけ。

「嫌だ、頼む、頼む!」

 彼にできたのは、頭を抱え込み目を閉じることだけだった。

 

 そして、静寂。

 

 いつもと同じ夜、いつもと同じ部屋。

 彼は、ゆっくりと目を開いた。

「い、生きてるのか、俺・・・」

 

「お疲れー、頑張ってるな」

「あ、お疲れ様です先輩」

 同時刻、星月が輝く空高く、死神が2体、ゆっくりとゆっくりと上がっていく。

「今年の最優秀死神賞受賞おめでとう、すごいな、なにか秘訣でもあるのか」

「いやぁ、ありがとうございます。お世話になった先輩だからお話しますけど、コツを発見したんですよ。ほら、僕たちって定められたときに下界へ降りて魂の回収をするじゃないですか」

「ああ、人間の寿命に応じてな。その回収した魂の量と質(QOS:Quality of Soul)で俺たちの成績が決まる」

「それなんです。実は、寿命が来る前に一度対象者のところを訪れることにしたんですよ。一回目は顔見せだけなんですけど」

「二回も行くのか。めんどくさいだけだろう」

「いや、めんどくさいことはめんどくさいですけど、すごく効果があるんです。一度訪問した人間の魂のQOSは、ほかの魂のそれと比べると全然違うんです。なぜか、人生の満足感やら達成感が高まってるんです」

「なんでまた。死神の姿を見ようが見まいが、いずれ死ぬことは奴らもわかってて生活しているんじゃないのか」

「そうなんですけどね、不思議ですよ、人間って。死神の姿を見てようやく、死ぬことと生きていることを実感できるなんて」

「ほんとに不思議な奴らだな。とはいえ、お前のその成績優秀の秘訣は、俺にはめんどくさくて無理だわ。まぁ、頑張れよ、お疲れさん」

「ありがとうございます、お疲れさまでした」

 

 死神の姿は、やがて月と重なり、そして、消えていった。