コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

月の砂漠のかぐや姫 第103話

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(これまでのあらすじ)

 月の巫女である竹姫と、その乳兄弟である羽磋。月の巫女としてではなく、素の自分の居場所が欲しいと頑張る竹姫に、羽磋は「輝夜」(かぐや)の名を贈り、自分が輝夜を望むところに連れて行くと約束します。それは二人だけの秘密でした。しかし、大砂嵐から身を守るために月の巫女の力を使った竹姫(輝夜姫)は、その大事な秘密を忘れてしまいます。月の巫女はその力を使った代償として自らの記憶・経験を失い、最悪の場合は、その存在が消えてしまうのです。それを知った羽磋は、輝夜姫が無事に生を全うして月に還ることができる方法を探すため、肸頓族の阿部の元へと旅立ったのでした。

 

※これまでの物語は、下記リンク先でまとめて読むことが出来ます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きっとん)族へ出されることとなった。大伴の息子。

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【第103話】 

 翌日の朝を、羽磋は天幕の中で迎えました。その天幕は、小野の交易隊員が、土光村の周囲に設営したものでした。

 羽磋は、護衛隊の者に混じって、自分たちが騎乗する馬の世話や交易隊が連れている駱駝たちの世話を行った後で、乳酒や乳茶、それに、クルトと呼ばれる硬いチーズの朝食を取りました。

 月の民の者は、家畜から得られる恵みと共に、季節を過ごします。

 つまり、草が茂り羊が良く乳を出す、春から初秋にかけては、乳茶や乳酒などの乳製品が主食となります。また、冬を迎えて羊が乳を出さなくなると、繁殖に用いる以外の雄羊や乳を出さなくなった雌羊などを選んで解体し、これが主要な食料となるのです。

 もちろん、発酵酒である乳酒や、乳から水分を除いた乾燥チーズであるクルト、それに干し肉などは、一年を通じて大切に保存されて、命を繋ぐ貴重な栄養源として食されるのでした。

 羽磋の出身部族である貴霜族は、祁連山脈からの水源を利用できる讃岐村という根拠地を持っているため、この国の中では珍しく、小麦等の穀物を生産していました。

 しかし、その畑から得られる恵みの量は、遊牧から得られる恵みと比較すればすれば、わずかな量に過ぎないのです。そのため、穀物を練ったものから作る饅頭や麺などの食べ物は、例外的に讃岐村で食されるのを除けば、月の民の中では、祭りや神事などの「ハレの日」に食するもの、という位置づけがされているのでした。

 土光村の中では、各地から集まる交易隊が持ち込んだ、通常の遊牧生活ではあまり目にすることのない作物や食べ物が、市場に並ベられていました。でも、このように、村の周囲に駐屯している交易隊員自身が日常的に口にするものといえば、いつも代わり映えのしないものなのでした。

 だからこそ、祭りの時や、昨日の打ち上げのような時には、遊牧民族の男たちは、思う存分飲んだり食べたり、また、歌ったり踊ったりして、心ゆくまで生を楽しむのでした。

 

 

「羽磋殿ぉ。おはようごいますぅ。体調はどうっすか。俺、頭が痛いんすよね・・・・・・」

 羽磋に声をかけてきたのは、苑でした。しかめ面をしながら、片手を頭に当てています。

「ああ、そうだ、たしか、苑は初めて酒場に連れて行ってもらったんだったな」

 打ち上げの始めのうちは、羽磋も苑と共に、強い蒸留酒であるアルヒを口にしていました。たしか、その段階ですでに苑はかなり酔っていて・・・・・・、そうそう、彼から、空風に送る合図を叩き込まれたのでした。

 その後で羽磋は酒場の奥の小部屋に呼ばれたので、酒席からは外れることになってしまったのですが、そこに残された苑は、他の先輩に勧められるまま杯を重ねたのでしょう、今ではすっかり二日酔いとなってしまっているようでした。

「よお、小苑、調子はどうだ」

「あ、昨日はごちそうさんでしたぁ。今日は、なんだか頭が痛くて、ふらふらするんすよ」

 他の天幕から出てきた護衛隊の先輩が、苑に声をかけました。二日酔いで参っている様子の苑を見て、ニヤニヤとしています。

「なんだ、情けねぇなぁ。しょうがねぇ、いい方法を教えてやるよ。あのな、そういう時は、もう二、三杯アルヒをな・・・・・・」

「だ、駄目です、駄目ですよっ。長引くだけですよ、辛いのが」

「なんだ、羽磋殿か。いやいや、冗談ですよ、冗談。ははは、小苑、水でも飲んで大人しくしとくんだなっ」

 根拠地に駐屯している安心感がそうさせるのか、先輩が軽口を叩きました。

 それにも、思わず訂正の横やりを入れてしまうところが、羽磋の真面目なところなのかもしれません。

 でも、軽口を飛ばした先輩は、羽磋が訂正を入れるところまでを見通していたようでした。気を悪くした様子もなく、小苑に水を飲んで休んでいるようにと声をかけると、彼は自分の仕事を片付けるために歩き去りました。

「うう、羽磋殿・・・・・・、俺はもう駄目っす。地面がぐらぐらするっす。気分が悪いっす・・・・・・」

「しっかりしろ、小苑。それは二日酔いと言って、要は酒の飲みすぎなんだよ。お前も聞いたことがあるだろう? さっきの人が話していたように、水を飲んで大人しく休んでいたら、そのうちに治まってくるから」

「これが二日酔いっすか。ものすごく吐き気もするし、辛いっす」

「ああ、幸い、今は駐屯中だろ。そんなに仕事は無いはずじゃないか。大人しくしておけよ」

 生まれて初めての二日酔いにすっかり弱っている苑を、慣れないながらもなんとか介抱する羽磋でした。

 その二人を含めた交易隊の全体に伝わるように張り上げられた大きな声が、駐屯地の中央から上がりました。それは、小野の声でした。

「みなさん、昨日はご苦労様でした。朝からさっそくの連絡で申し訳ありません。我が交易隊はしばらくこの村に留まり、他の交易隊との荷の交換などを行います。ですが、これまで我が隊と同行されていた留学の徒である羽磋殿は、先を急ぎ、明日吐露村へ立たれることになりました。護衛隊の諸君は、羽磋殿に同行して護衛をお願いいたします。また交易隊の諸君も、羽磋殿と護衛隊のための糧食などを整えてください。詳しいことは後にご説明しますので、銅鑼が鳴ったら、責任者はわたしのところに集まってください」

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