コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ⑲(「月の砂漠のかぐや姫」第84話から第89話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ⑲】

 羽磋が来るように言われたのは、酒場の厨房の更に奥に造られている小部屋でした。

 この建物はもともと倉庫として建てられたものなので、開放的に大きく切り取られた店の正面口とは裏腹に、反対の面には通気口程度しか開けられていませんでした。そのため、まだ酒場の方では十分明るいにもかかわらず、小部屋の中には貴重な油を使った燭台がいくつか立てられ、中にいる人の影をゆらゆらと壁に映し出していました。

 小部屋の真ん中には木製の長机が置かれていて、その周囲には数人の男女が腰を下ろしていましたが、事情を知らない人が見たら、いったい何のための集まりなのかと首をひねるような、とても統一感のない面々となっていました。

 羽磋の正面に座っているのは、この酒場の女主人である王花(オウカ)でした。彼女を形容するときに適当な言葉は「きれい」だとか「活発な」というような言葉ではありませんでした。彼女は「どんっとした」とか「存在感のある」とかいう言葉がよく似合う、押し出しの強い女性でした。大柄な彼女の横には、対照的に小柄な男が座っていました。それは、羽磋が世話になっている交易隊の隊長である小野でした。

 羽磋の右手には、これも小野の交易隊に所属している男たちで、護衛隊の隊長である冒頓とその補佐である超克が腰を下ろしていました。

 羽磋の左手では、先ほどから年若い男女が立ち上がって、部屋にいる皆に対して説明をしていました。ひょろっとした背の高い男の方が、王花の盗賊団の一員である王柔で、理亜という名の少女に助けられながら、自分たちがどうやってこの村に辿り着き王花の酒場に迎え入れられたかを、説明しているのでした。

 

 

「それで、どうしても皆さんにお願いしたいことがありまして・・・・・・」

「ああ、いいよ、王柔。ここからはあたしが話そう」

 話が一段落したところで、王柔の話を王花が引き継ぎました。

 羽磋は、王柔の話の内容にすっかり戸惑ってしまっていました。

 彼の話によると、ヤルダンと呼ばれる場所に病気の為に置き去りにされた、まだ、十歳ぐらいにしかならない理亜という少女が、一人で土光村まで交易路を歩いて辿り着いたのです。それだけでもとても信じられないことなのですが、いったいどういう不思議なのか、彼女は村で出迎えた王柔の体を、まるで精霊のようにすり抜けてしまったというのです。さらに、彼女は日が沈むと同時に姿を消してしまったとも言うのです。次の日の朝になると理亜は再び姿を現したというのですが、一体どういう道理でそのようなことが起こるのでしょうか。羽磋は、これまでにこれほど不思議な話を、聞いたことがありませんでした。

「まず、はっきりとさせておこうね。理亜の体には風粟の病に罹った痕跡は全くない。だから、その点についての心配はしなくてもいいんだ」

 王花の明瞭な声が小部屋に流れると、その場の主導権は完全に彼女の手に握られました。

「ただ、彼女が人の体に触れない、それに、夜になると消えてしまい、朝になると現れるという不思議な現象の理由は・・・・・・、残念だけど、よくわからないのさ。あたしも王柔も、村の長老に相談したりいろいろと考えたりしたんだけどね。だけど、彼女が母を待つ少女の声を聞いたという話からすると、その奇岩と精霊の力とが関わっているのかもしれないね」

「ああ、そうだな。その可能性は十分にあるんじゃねぇか」

 冒頓が真っ先に王花の話に賛同の声を上げました。その横では、副官の超克も深く頷いていました。

「やはり、そうだよね。それに、精霊の力を高めるといわれる月の巫女の祭器も、これに関わっているのかもしれないわね」

「私もそう思います。王花殿」

 小野も、精霊の力や月の巫女の祭器が、理亜の件にかかわっているのではないかとの見方を示しました。

 羽磋は自分の目の前で、月の巫女の祭器に関する話が交わされているのを見て、不安を覚えました。父や小野からは、月の民全体の単于(王)である御門が月の巫女の力を利用すべく部下を放っているので、祭器に関する話は慎重に行わなければならないと聞かされていたからでした。

 しかし、この場所にいる者は、阿部の部下である小野に王花、そして彼らの部下である冒頓たちだけで、彼らは全て阿部の指示を受けて月の巫女の祭器を探す仲間なのでした。

 改めて小野からそのような説明を受けた羽磋は、「月の巫女を月に還したい」という仲間がいることを、心強く感じるのでした。

「さて、理亜のことの他に、もう一つ大きな問題があるんだよ。実は、ヤルダンが通り抜けできなくなっているんだ。ヤルダンの奇岩たちに遮られてね」

 倉庫での作業中に羽磋が小野から「交易路に問題が生じている」と聞かされていたのが、この問題なのでしょう。でも、いったいどういうことがあったのでしょうか。強風や地震などで交易路が崩れたり大きな岩が落ちるなどして、道が通れなくなっているとでもいうのでしょうか。

「いや、羽磋殿。言った通りだよ。奇岩に遮られているんだ。つまり、奇岩が、ヤルダンの魔物が動き出して、そこを通る者を襲っているんだ」

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