コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ㉛(「月の砂漠のかぐや姫」第121話から第122話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ㉛】

 迫ってきているサバクオオカミの奇岩の群れに、左右から矢を射かけていた護衛隊の男たちは、銅鑼の音を合図に一斉に馬首を返して後退を始めました。

 前方から一団となって走ってきた奇岩の群れは、離れていく左右の護衛隊を追いかけて、二手に分かれました。それでも激しい濁流のようなその勢いは少しも衰えないのですが、彼らの牙はなかなか馬を走らせる男たちには届きません。ようやく男たちの近くまで追いついたサバクオオカミがあっても、彼らが馬上で反り返って撃つ矢に射抜かれてしまうのでした。

 左右の騎馬隊がそれぞれ後退をして離れていくにしたがって、一塊だったサバクオオカミの奇岩の群れもどんどんと左右に散らばっていきます。そこへ。

 

 ドドドドドゥツ!!

 

「そらそらそらぁ! あいつらはなんだ? ただの土の塊じゃねぇか。人間様を襲うなんて100年早いって教えてやろうぜっ」

 馬上で槍を構える冒頓を先頭に、交易隊本体を守っていた徒歩の護衛隊が、広がって薄くなった奇岩の群れの中央に、槍先をそろえて突っ込んできたのです。

 ドスドスッ!

 冒頓の槍が次々とサバクオオカミの形をした砂岩を突き崩していきます。そして、動きが悪くなった個体は、その後に続く男たちによって、完全に破壊されていくのです。

 もし、大空を周回しているオオノスリの空風にこの戦いの様子を尋ねたならば、「それはまるで小舟が水を割いて進むかのようだった」という答えが返ってきたでしょう。

 冒頓たちは、自分たちの進む先の奇岩を思う存分に叩き潰し、群れの反対側に突き抜けました。そして、すぐさま反転をすると、また群れに突っ込んでいきました。

 サバクオオカミの奇岩は恐怖や痛みこそ感じないものの、群れを率いるリーダを持っていませんでした。当初の勢いを無くした彼らは、それぞれが自分の近くの敵に噛みつこうと動き、群れとしてのまとまりを完全に失ってしまいました。

 そこへ、ザアッと雨が降ってきました。

 雨? いえ、それは雨ではありません。再び奇岩の群れを突破した後で、離れた場所で徒歩の隊をまとめた冒頓が、左右の騎馬隊に合図を送ったのです。

「矢を放て」と。

 

 ザアッ! ザァツ!!

 バスン、バスンッ。トスットスットスッ!

 

 椰子の葉に雨粒が当たるかのような音を立てて、サバクオオカミの奇岩に次々と矢が立っていきます。傷ついた奇岩の動きが遅くなったのを見て取った冒頓が、徒歩のものを引き連れて再度突入していきます。

 しばらくの間、辺りに冒頓と護衛隊の男たちの大声が響きました。

 そして、ゴビの大地に再び静けさが戻った時には、この辺りにはサバクオオカミの形をした奇岩は、一体も残ってはいなかったのでした。

 

 

 オオノスリの空風を除いて、この戦いの様子を一番よく把握できていたのは誰かというと、実は冒頓ではなくて、羽磋と苑でした。

 彼らは、冒頓と一緒にサバクオオカミの奇岩の群れに突入してはいなかったのでした。

 苑には、少し離れた場所から周囲の警戒をし、万一新手が現れた時などには、銅鑼を鳴らすことでそれを冒頓に知らせるという役目がありました。

 また、羽磋はといえば、冒頓たちと共に戦った経験がありませんでしたし、そもそも、名目上とはいえ護衛が付けられたのは、留学の徒である羽磋を守るためでした。

「すごい・・・・・・。やっぱり、すごいな・・・・・・」

「へへっ。それは、そうっすよ。冒頓殿が指揮する匈奴護衛隊には、どんな奴らもかないやしないっす」

 思わず驚嘆の言葉を漏らした羽磋の横で、苑が自慢げに答えました。その小柄な体は、自らが所属する護衛隊の活躍に極度に興奮して、細かに震えているのでした。

 交易隊を襲ってきた野盗と戦う場合などには、護衛隊が激しく抵抗することで相手に目的を達することが困難であることを悟らせれば、敵は逃げていきます。野盗と言えども命は惜しいのですし、強力な護衛隊を相手にせずとも次の機会を待てばよいのですから。

 しかし、動き出したゴビの砂岩であるサバクオオカミ達には、惜しむべき命もなければ次の機会をうかがう知恵もありません。

 そのため、冒頓たち護衛隊は、物理的にすべてのサバクオオカミを破壊してその動きを止めねばならず、彼らが交易隊の元に引き上げてきたときには、ずいぶんと時間が経過していました。

 不思議なもので、自分たちの力により敵を打ち破ってしまうと、始めに抱いた「異形に対する恐れ」などはどこかに吹き飛んでしまったかのようでした。男たちは、興奮した様子で陽気な大声を上げたり、大げさに体を動かしたりしながら戻ってきました。

 冒頓は、部下たちの様子にニヤニヤとした笑みを浮かべながら羽磋たちの元に戻ってくると、大した仕事をしていないとでもいうように、軽い調子で「よう、戻ったぜ」と声を掛けました。

「お、お疲れさまでした。すごかったです」

 そんな冒頓に対してどのような反応を見せればよいかわからず、羽磋はただ背筋を伸ばして緊張した声を出すのでした。

 冒頓は、少年らしい素直な羽磋の反応に好意的な視線を送ると、苑に銅鑼を鳴らして隊全体を集めるように指示を出しました。

「わかったっすっ!」

 尊敬と賛美の気持ちがいっぱいに詰まった返答と共に、苑は力強く銅鑼を鳴らしました。

 その大きな音が響き渡る空気の下では、方々に周囲の地面と違う色をした砂が散らばっていました。それこそが、つい先ほどまで、いびつながらもサバクオオカミの形をとり、護衛隊の男たちの喉元を食い破ろうと激しく動き回っていた、ヤルダンの奇岩の名残なのでした。

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