コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

これまでのあらすじ㉑(「月の砂漠のかぐや姫」第94話から第96話)

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 パソコンの不調により中断が長引いたため、再開にあたり第一話から中断したところまでの物語を、一度振り返りたいと思います。

「最初から読んでなかった」という方もこれで安心、すぐに本編に追いつけます!

 これからも、竹姫や羽たちと共にゴビの砂漠を旅していただけたら、作者としてこれ以上うれしいことはございません。

 よろしくお願いいたします!

 

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでもご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きどん)族へ出されることとなった。大伴の息子。幼名は「羽」(う)

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【あらすじ㉑】

「精霊の力が関わっている、それも、月の巫女の祭器が関連している可能性があるのであれば、できるだけ話を大きくしたくはありません。とはいっても、王花の盗賊団の方たちは、まだ動けるような状態ではないでしょう。ここはやはり、冒頓殿の護衛隊の力をお借りしたいと思います」

 小野が指摘するまでもなく、理亜の身体に起きていることやヤルダンの現状は、人間の世界の出来事と考えるよりは精霊の世界の出来事と考えた方が腑に落ちるような、普通ではとてもあり得ないものです。精霊の力を増幅するといわれる「月の巫女の祭器」がそれに関連していることも、十分に考えられます。

 小野は、片足を失っていて不自由な阿部から、交易で旅をすると同時に、各地で注意深く月の巫女の祭器の情報を集めるようにとの指示を受けていました。でも、そのために自分たち以外の者の手を借りることは難しいのでした。巡り巡って御門の手の者に情報が伝わる恐れがあるからです。ですから今回の件も、小野は仲間内だけで、調査を進めようと考えているのでした。王花も小野と同じように阿部の部下でしたから、今のところヤルダンの変異は、公には知られていないはずなのでした。

「そこで、申し訳ありませんが、羽磋殿。貴方にもご協力をいただきたいのです」

「は、はいっ!? 私ですか? もちろん協力はさせていただきますが、何か私にできることがありますでしょうか」

 突然、広がっていた話が糸のように紡がれて、自分の方にまっすぐに飛んできたことに、羽磋は戸惑いました。もとより、小野や王花は「月の巫女を月に還したい」という想いを共有する仲間ですし、理亜のことも気の毒に思っています。それに、ヤルダンの問題を解決しないことには、そこを通って阿部がいる吐露村に行くことができないのですから、自分にできることがあるのであれば、何でもやるつもりです。ただ、これまでと同様に護衛隊の一員として行動する以上に、何かできることがあるのでしょうか。

「つまり、こういう形にしようと思うのです。我々交易隊は、土光村に荷を下ろしたところです。この村は交易路の分岐点にもなっていて、他の交易隊も逗留していますから、しばらくはここに留まり荷の交換をしたいと思います。そこで、羽磋殿。貴方には、交易隊から離れていただきたいと思うのです」

「はい、私は・・・・・・、ええっ?」

 小野の交易隊の目的地は自分と同じ吐露村でしたから、羽磋は最後まで小野たちと行動を共にするつもりでいました。それなのに・・・・・・。羽磋は小野の説明に口を挟もうとしましたが、冒頓がそれを諫めるように軽く手を振ったのを見て、何とか自分を収めることができました。

「ええ、留学の徒として先を急がれる羽磋殿を、我が交易隊の出発までお待たせするのは申し訳ありません。もちろん、一人旅は大変ですし危険です。交易隊が動かない間、護衛隊には特に仕事がありませんから、冒頓殿の護衛隊に羽磋殿を吐露村まで送り届けていただきましょう。ああ、王花殿、ありがとうございます。ヤルダンの案内人として王柔殿を出していただけるのですか。それでは、羽磋殿は祁連山脈北側の讃岐村のご出身で、ここらに来られたことはないそうですから、有名なヤルダンの奇岩の数々もご覧いただきましょう。駱駝岩に孔雀岩、それに、母を待つ少女の奇岩もです」

 つまり、直接関わり合いのない冒頓たち護衛隊がヤルダンに向かうことに対する名目として羽磋を利用したい、小野はそう頼んでいるのでした。

 羽磋としては、このように丁寧に説明を受け納得できれば、それに対する異論などはありませんでした。

「それに王柔殿、これはあなたにお願いなのです。大っぴらにはできませんが、羽磋殿を案内する際には、理亜殿を一緒に連れて行ってほしいのです。彼女の存在はまだ御門殿には知られていないでしょうから、できるだけ人目につかないようにお願いします。彼女を連れて行ってどうなるか、いまはまだわかりません。しかし、理亜殿が母を待つ少女の奇岩の声を聴いたというからには、彼女を現場に連れていくことで何かが起きるかもしれないのです」

「丁寧な説明」と「情報の共有」が特徴の小野の話が一段落しました。

 一つの方向性が示されたことで、少しほっとしたような空気が小部屋の中に広がりました。

 ガタタンッ・・・・・・。

 その空気を乱したのは、王柔の椅子が立てた荒々しい音でした。彼は小野の説明を聞きながら、顔色を白くしながら震えていたのですが、とうとう椅子から立ち上がって話し出したのでした。

「ま、待ってくださいっ! 理亜も連れて行くんですかっ? 王花の盗賊団の男たちでも、動く砂岩に酷い怪我を負わされたんですよっ!」

 王柔の叫ぶような声に、冒頓の頬がピクリと動きました。彼の副官を長く勤めている超克であれば、その動きが意味することが判ったかもしれません。それはこういっていました。「何を言ってやがる。俺の護衛隊が守るんだぜ」と。

「それに、それに、理亜はどうなってしまうんでしょうか。母を待つ少女の声を聴いてから、理亜はこうなってしまった。その母を待つ少女の奇岩を崩しでもしたら、理亜は・・・・・・」

 王柔の頭の中には、恐ろしい光景が浮かび上がっていました。

 ・・・・・・ヤルダンの中で、不思議な形をした砂岩たちと男たちが争っています。

その中心にあって両手を振りかざしているのは、ああ、それこそが母を待つ少女の奇岩です。そうです、男たちは、この奇岩を破壊するためにやってきたのでした。

 やがて、母を待つ少女を護る奇岩は数を減らしていき、とうとう、男たちの刀が母を待つ少女に振り下ろされます。

 アアアアアッゥウウ・・・・・・。

 音無き叫びが、ヤルダン中を満たします。

 そして、理亜が。王柔の横にいる理亜が。

 まだ太陽の光あふれる昼間だというのに、その姿を消していくのです・・・・・・。

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