コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

月の砂漠のかぐや姫 第164話

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(これまでのあらすじ)

 月の巫女である竹姫と、その乳兄弟である羽磋。月の巫女としてではなく、素の自分の居場所が欲しいと頑張る竹姫に、羽磋は「輝夜」(かぐや)の名を贈り、自分が輝夜を望むところに連れて行くと約束します。それは二人だけの秘密でした。しかし、大砂嵐から身を守るために月の巫女の力を使った竹姫(輝夜姫)は、その大事な秘密を忘れてしまいます。月の巫女はその力を使った代償として自らの記憶・経験を失い、最悪の場合は、その存在が消えてしまうのです。それを知った羽磋は、輝夜姫が無事に生を全うして月に還ることができる方法を探すため、肸頓族の阿部の元へと旅立ったのでした。

 

※これまでの物語は、「月の砂漠のかぐや姫」のタブでご覧になれますし、下記リンク先でもまとめて読むことができます。

 

www.alphapolis.co.jp

 

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きっとん)族へ出されることとなった。大伴の息子。

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【第164話】

 ザシィンッ! ドンッ、ゴロンゴロン・・・・・・。 

 騎馬隊の先頭に立って突入してきた冒頓に対して、サバクオオカミの奇岩の群れの中央を走ってきた一頭が飛び掛かりました。その奇岩は冒頓の正面から近づいてきていて、群れの中で彼に最も距離が近いものでした。つまり、冒頓の方からも「まず、こいつが飛び掛かってくるだろうな」と予想されていた一頭だったのです。そのような直線的な攻撃が冒頓に通じるはずがありませんでした。サバクオオカミの奇岩の頭は、冒頓の短剣の一撃で切り落とされ、地面に転がり落ちました。

 冒頓は、頭の転がっていく先などは一向に気にせず、力をなくして馬にもたれかかってきた奇岩の胴を足で蹴り飛ばすと、さらに前に馬を進めました。

 今度は、冒頓の馬を狙って、正面から飛び掛かってくる奇岩がありました。

 冒頓は愛馬の手綱を力いっぱい引いて、前足を大きく上げるようにしました。興奮して振り回される馬の前足は、ちょうど襲い掛かってきたサバクオオカミの奇岩の頭の位置になりました。固い蹄を何度も叩きつけられた奇岩は、肩から上が粉々に砕けてしまいました。

「おら、おらぁっ」

 冒頓は左右から自分に飛び掛かってくるサバクオオカミの奇岩には短剣で応戦しながらも、自分から攻撃は仕掛けずに、前へ前へと馬を進めました。冒頓がサバクオオカミの奇岩の群れを掻き分けてくれるおかげで、彼の後ろを走る騎馬隊の男は、自分たちの前と外側からの攻撃にだけ集中することができました。そして、後続の者たちも、自分から攻撃を仕掛けて隊形を崩すようなことはせず、自分に向かってこない敵は、さらに後ろに控える仲間に任すようにしていました。

 槍の穂先の隊形をしっかりと維持した騎馬隊は、サバクオオカミの奇岩の攻撃を確実に退けながら、先ほどと同じように敵の群れをやすやすと分断していきました。騎馬隊が通った後には、少し前まではサバクオオカミの奇岩だった砂岩の断片が、幾つも幾つも転がっていました。そして、そこには、傷を負って倒れている騎馬隊の男は一人もおりませんでした。

 やはり、隊形をしっかりと保ち、一か所に留まることなく奇岩の群れの中を駆け抜ければ、一人が複数の敵に囲まれて攻撃されることは防げるようでした。

 ただし、こちらから攻撃を仕掛けないことから、一度の突撃で倒すことのできる敵の数は、それほど多くはありません。「敵の群れを突き破っては、反転して再度突撃をする」、これを何度も繰り返せば、味方の損害を最小限に抑えたままで、敵をせん滅することは可能だと思われますが、最大限の速度で駆けさせる馬にかかる負担は大きく、これを何度も何度も繰り返すことはできません。それに、未だに細かな振動を繰り返している地面に冒頓は不安を感じていましたから、馬がつぶれたり状況が悪化したりする前に、できるだけ早くの決着をつけようとしていたのでした。

 サバクオオカミの奇岩の群れを突き破り反対側に出た冒頓は、馬上で頭を高く上げて、周囲を見回しました。

 ポツンポツンと大きな砂岩の塊が、湖に浮かぶ小島のように、盆地の中に点在しています。そして、その盆地の地肌には、大きな裂け目が幾つも口を開けて、地上を走るものを呑み込もうと待ち構えています。冒頓の鋭い視線は、その奇怪な光景を通り抜けた先に、他の男では見分けられないようなほんの小さな大きさでしたが、サバクオオカミの奇岩の群れと、人の姿に似た形をした砂岩の像があるのを見分けました。

 盆地の外周部で、幾つも幾つも存在する大きな岩や大地の裂け目を避けながら、サバクオオカミの奇岩と走りあっている間に、母を待つ少女の奇岩がいる中心部からは遠く離れたところに、彼らは来ていたのでした。

「よし、ちょうどいいなっ。悪いな、相棒、もう少し頑張ってくれよっ」

 冒頓は、勢いよく上下する愛馬の首筋を軽く叩くと、その鼻先を盆地の中心部に向けました。そして、持っている全ての力を絞り出すようにと、激しく波打っているその腹を蹴って伝えました。これまでもサバクオオカミの奇岩との追走劇で走り通しだった冒頓の愛馬は、口の端から泡を飛ばしながらも、主人の指示に応えようとさらに足に力を籠めるのでした。

「お前らっ、敵の親玉を叩くぞっ。後ろから来るオオカミには構うなっ。母を待つ少女を砕くんだっ」

「おうっ!」

「よおしっ。了解ですっ」

 サバクオオカミの奇岩の群れを突き抜けた騎馬隊は、先ほどとは違って反転をすることはせず、盆地の中心部に小さく見える母を待つ少女の像を目指して、さらに勢いを速めて馬を駆けさせました。

 全ての力を振り絞って馬を走らせれば、先ほど断ち割ったサバクオオカミの奇岩の群れが後ろから追いかけてきたとしても、自分たちの方が速いのです。もちろん、馬がその速度で走り続けることはできませんが、冒頓は馬が疲れ切って足を止めてしまう前に、母を待つ少女の奇岩とそれを守るサバクオオカミの奇岩の元に辿り着いて、一撃の元にそれを破壊するつもりでした。

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