コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。また、短編小説集をBOOTHで発売しております。https://syuuhuudou.booth.pm/

【掌編小説】美しい夜

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 キミ、とっても寒そうにしてるね、大丈夫?

 ボク?

 ボクは大丈夫さ。

 そりゃ冷たい北風が顔に当たるのは寒いけど、そうするとコートの内側があったかいことがより感じられて、幸せな気持ちになるんだ。

 えっ、そんな悟りの境地には至っていない? 冷たい北風がそもそも嫌なんだって?

 ハハッ、相変わらず厳しいな、キミは。

 でも、本当に寒そうだよねぇ。何かないかなぁ、気晴らしになるようなもの。

 

 そうだ、今日の塾でやってたよね。エネルギー保存の法則。

 そうそう、ブレーキを踏んで車が止まるのは、車が持っていた運動エネルギーが摩擦力と熱に変換されて無くなったからだって説明があったアレだよ。

 結局は、何かを与えるのと引き換えに何かを得るってことだと思うんだよね、アレは。

 それでさ、見てよ、今日の月を。すっごく明るいよ。

 ボクは夏の夜空よりも冬の夜空の方が、空気が透き通っていて綺麗だと思うんだ。

 北風って北から吹いて来るよね、当たり前だけど。その風は、北方を通る時に持っていたものを分け与えて、その代わりに寒さを身に付けたんじゃないかな。空気が透明に思えるくらいの寒さを。

 北方で何を与えたかって?

 それは、ほら、もちろん決まってるさ。

 美しい夜、だよ。

 

 ええっ、そうかな。

 アハハッ。最初の風のままの方が良かった? こっちの綺麗な夜空は北の方で与えなかった残り物かって? 

 なるほど、それはそうかもね。フフフ。

 でも、綺麗な夜空を透明な空気を通して見れるのは、風が北から吹いてくれるからなのかもしれないよ。

 

 どういたしまして、キミの気晴らしになったんだったら、嬉しいよ。

 ほら、あの月。とっても綺麗だよ。

                                   (了)