コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。また、短編小説集をBOOTHで発売しております。https://syuuhuudou.booth.pm/

【詩】願い ~小さな叙事詩Ⅱ

 

 

 

「ずいぶんと風通しが良くなったね」

今年の暮れに北極圏からやって来る冬の使者は そう呟くだろう

交通の要所であるこの街には ずいぶんとたくさんの背高な建物が並んでいて

彼が連れて来る北風が街を通り抜けようとすると いつも邪魔をしていたのだ

ところがどうだ 今年の街は

中心部に林立していた建物で 昨年と変わらないものは一つもない

ほとんどの建物が その肌に大きな穴や崩れを持っている

石灰色の瓦礫でできた背の低い山に 姿を変えてしまったものも 少なくない

毎年 北風が木々の葉を揺らして立てていた ザアザアと言う音に

今年は 廃墟の隙間で鳴り響く ビヒョウヒヒョウと言う音が加わるだろう

 

新年に行われていたクリスマスの祝いは

旧年の内に行われることとなった

 

がっしりとした石壁と分厚いガラス窓に守られた温かな室内で 

「願い事を一つに絞ることなどできないよ せめて三つはお願いしたいな」 

と 目を輝かせていた子供たちは

避難先の地下道で 毛布にくるまって寒さをしのぎながら

たった一つの願い事を 毎日神に祈り続けるようになった

 

その願いをかなえるのは 誰だ

神か

彼方か

此方か

それとも 貴方か 私か

 

翼で冷気を切り裂きながら

今日も街の上空を 無人機が 飛ぶ

その腹には あちらの言葉でこう記されている

「Present from GOD」