コトゴトの散文

日常のコトゴトが題材の掌編小説や詩などの散文です。現在は「竹取物語」を遊牧民族の世界で再構築したジュブナイル小説「月の砂漠のかぐや姫」を執筆中です。宜しければ、ひとときおつきあいください。

月の砂漠のかぐや姫 第105話

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(これまでのあらすじ)

 月の巫女である竹姫と、その乳兄弟である羽磋。月の巫女としてではなく、素の自分の居場所が欲しいと頑張る竹姫に、羽磋は「輝夜」(かぐや)の名を贈り、自分が輝夜を望むところに連れて行くと約束します。それは二人だけの秘密でした。しかし、大砂嵐から身を守るために月の巫女の力を使った竹姫(輝夜姫)は、その大事な秘密を忘れてしまいます。月の巫女はその力を使った代償として自らの記憶・経験を失い、最悪の場合は、その存在が消えてしまうのです。それを知った羽磋は、輝夜姫が無事に生を全うして月に還ることができる方法を探すため、肸頓族の阿部の元へと旅立ったのでした。

 

※これまでの物語は、下記リンク先でまとめて読むことが出来ます。

 

【竹姫】(たけひめ)【輝夜姫】(かぐやひめ) 月の巫女とも呼ばれる少女。人々からは「竹姫」と呼ばれる。羽磋に「輝夜」(かぐや)という名を贈られるが、それは二人だけの秘密。

【羽磋】(うさ) 竹姫の乳兄弟の少年。貴霜(くしゃん)族の有望な若者として肸頓(きっとん)族へ出されることとなった。大伴の息子。

【翁】(おきな) 貴霜族の讃岐村の長老。夢に導かれて竹姫を拾い育てた。本名は造麻呂。

【大伴】(おおとも) 羽の父。貴霜族の若者頭で遊牧隊の隊長。少年の頃は伴(とも)と呼ばれていた。

【阿部】(あべ) 大伴の先輩で良き理解者。肸頓族の族長。片足を戦争で失っている。

【小野】(おの) 阿部の信頼する部下。片足を失くした阿部に代わっ

て、交易隊を率いている。小野と言う名前だが、30代の立派な成人。

【御門】(みかど) 月の民の単于(王)。

【冒頓】(ぼくとつ) 烏達渓谷の戦いで大敗した匈奴が月の民へ差し出した人質。匈奴の単于の息子。小野の交易隊で護衛隊長をしている。

【苑】(えん) 匈奴から冒頓に付き従ってきた従者の息子。成人していないので、親しいものからは「小苑」(しょうえん)と呼ばれる。

【王花】(おうか) 野盗の女頭目

【王柔】(おうじゅう) 王花の盗賊団の一人。交易隊の案内人。

【理亜】(りあ) 王柔が案内をしていた交易隊が連れていた奴隷の少女。

 

 

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【第105話】 

 人通りの多い大通りを抜けて村の中心部に入っていくと、周囲の建物の様相が変わってきました。

 大通りの両脇には、交易物を並べるための仮設の建物や、多くの客を呼び込むために間口が広く作られた、飲み物や食べ物を売る店が並んでいました。

 でも、この中心部に並んでいるのは、土壁で広い敷地を囲った、落ち着いた様子の邸宅ばかりなのでした。

 土壁の開口部から敷地の中を覗くと、立派な中庭が見えます。そして、敷地の中には、主人が暮らす母屋や使用人が暮らす建屋などが、中庭を中心にしてぐるりと並んでいます。その様子は、まるで、村の中に存在する小さな村のようでした。

 二人が辿り着いたのは、交易隊の荷物を収めた広い倉庫よりも、さらに広い敷地を持つ館でした。周りの建物と比べても、飛びぬけて広い敷地を持っていることが、見て取れました。

 この館こそが、土光村の代表者である、交結(コウユ)の館なのでした。

「では、羽磋殿、お話した通りにお願いします」

「わかりました。よろしくお願いします。小野殿」

 

 今朝の打合せの後に、天幕に残るように言われた羽磋は、小野から注意を受けていました。

 それは、「月の巫女の力については知らないことにする」ということと、「ヤルダンで起きている問題の詳細は知らないことにする」ということでした。

 そのどちらも、羽磋という人間を守るための配慮でした。

 土光村は、肸頓族の建てた村で、交結も肸頓族の男です。しかし、土光村は交易路の主要な中継地であり、様々な荷と情報が、この地を経由していきます。そのため、御門は、交結に対して「月の巫女が儀式に使用する祭器を探してほしい。それを手に入れたら、速やかに報告するように」と依頼をしていることを、小野は知っていたのでした。

 そのため、月の巫女の秘儀を調べようとしている羽磋のことが交結に知れると、たちまち御門までそのことが伝わるのではないかと、小野は心配をしているのでした。

 これは、二つの意味で、極めて異例なことと言えました。

 月の民は一つの国ではあるものの、各部族の緩やかな集合体です。そして、土光村は阿部が族長である肸頓族の村なのですから、通常、月の民全体の単于である御門といえども、阿部を飛び越えて交結に直接命令をすることはできません。

 ましてや、御門は、他部族である双蘼族の出身ですから、交結と個人的な付き合いなども、無いはずでした。

 表向きは、御門と阿部は協力して月の民の運営に当たっています。「月の民に属する者の生活を良くしたい」、「他の国の脅威から国を守りたい」、そのような思いは二人とも共有していますし、お互いに相手を能力のある指導者として認めています。

 しかし、弱竹姫の一件があって以来、月の巫女に関する考え方だけは、二人の間で共有することができていないのでした。

 「月の巫女の力を、国を守るために積極的に利用する。そのために、彼女たちの存在や記憶に問題が生じ、月の民の心のよりどころである「死後には月に還る」ことができなくなっても、やむなし」と考える御門。

 「月の巫女を他の人間と同様に扱い、これ以上その力を利用されて、月に還れなくなる事をなくしてやりたい」と考える阿部。

 この「月の巫女」に関する物事に関しては、お互いに違う考え方を持っているだけではなく、月の巫女自身、そして、祭祀に使われる祭器を巡って、水面下で激しい駆け引きが行われているのでした。

 このような状況の中で、土光村、そして、交結という存在は、月の巫女に関する情報を得るために非常に大事なものとなっているのでした。そのため、御門としても、争いをしている阿部を飛び越えて、表立ってではない方法で、交結に依頼をしているのでした。

 これが「異例」なことの、一つ目の意味です。

 では、その意味の、二つ目は何なのでしょうか。

「交結という方は・・・・・・、そうですね、この中継地の代表者にふさわしく、とても気さくで、非常に人当たりの良い方です。ただ、正直に申し上げて、隠し事のできない、思っていることが直ぐに面に出てしまう方でもあります」

 小野は、「とても」と「非常に」を強く発音して、言葉がもともと持つ意味以上のものを、羽磋に伝えようとしました。

「交結殿に、私が月の巫女の力について知らないことにするというのは・・・・・」

「そうです、交結殿には御門殿から、月の巫女についての情報や祭器についての情報が入れば報告するように、依頼が来ています」

「そうなのですか。確かに、ここにはそのような情報が集まりそうですが・・・・・・、肸頓族の族長の阿部殿からの指示ではないのですね」

「もちろん、御門殿から阿部殿にも、公式にそのような依頼は来ています。しかし、御門殿と阿部殿は、月の巫女に対しての考え方を異にされていますから、これはあくまでも形式的なものに過ぎないでしょう。ですが、それとは別に、阿部殿を飛び越えた直接の依頼が、御門殿から交結殿に来ているのです。それは、私が、交結殿から直接伺ったことです」

 驚いた表情をする羽磋に対して、小野は軽く頷いて見せました。その頷きは「ね、隠し事ができない方でしょう」というものでした。

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